河浪武史『円ドル戦争40年秘史』(日本経済新聞出版社)を読みました。
著者は、日経新聞のジャーナリストであり、現在はワシントン支局長です。
本書は、1970年代にいわゆるブレトン-ウッズ体制が崩壊して、為替が世界的に変動相場制に移行した後、タイトルからすれば約40年に渡る日米の通貨、すなわち、円ドル関係の「攻防」を日米の政策当局、日本の大蔵省・財務省や日本銀行、また、米国の連邦準備制度理事会(FED)や財務省の当局者にインタビューした結果などを基にしたノンフィクションです。
繰返しになりますが、タイトルは「40年秘史」ということになっているのですが、目次ではコロナ禍後の2023年までをカバーしていて、いわゆるニクソン・ショックなら1971年、為替が一気にフロートに移行したのなら1973年から数えれば50年になるのですが、タイトルと中身の違いは謎です。ついでに、表紙画像の1万円札の肖像も古そうな気がします。編集者はどう考えていたのでしょうか。
実は、私自身は1980年代の前半から2020年まで経済官庁に勤務していますので、かなりの部分は重なります。ただ、1970年代のニクソン・ショックや1973年8月の変動相場制移行はさすがに歴史の中でしか知りません。本書でもクローズアップされているイベントのひとつ、1985年のプラザ合意から始まった円高についてはよく記憶しています。1980年代後半に円高が進んだにもかかわらず、一向に日本の経常黒字が縮小しなかった謎をマクロ計量経済モデルをシミュレーションして解明しようと試みていた記憶は特に鮮明です。
プラザ合意から時々のテンポの速さは別にして、2012年のアベノミクス開始まで、ほぼほぼ一本調子で円ドル関係は円高が進んだのは歴史的事実です。もちろん、本書で解明しようと試みているように、それぞれのイベントにより要因は異なるわけで、プラザ合意後は実にブルータルにも政策当局は為替市場に直接に介入してドル高修正に努めたわけですし、1990年代初頭のバブル崩壊以降はいわゆる「安全通貨」としての円が選好され、危機時の円買いにより円高が進みました。リーマン・ショック後の円高局面がそうですし、「安全通貨」ではないとしても、神戸・淡路大震災や東日本大震災後の円高は、いわゆるレパトリの本国送金増による円高でした。
本書を読めば、ほぼほぼ日本の政策当局が米国の政策方向に追従しているのがよく理解できます。現在のトランプ政権と同じで、ドル安=円高は米国の輸出を促進することから、決して米国にとって悪いことではなかった点が理解できます。
本書では政策動向について詳細にインタビューなどであとづけていますが、同時に、直接市場に介入する政策は別にして、金融政策が為替相場に割り当てられていた、とまではいわないとしても、少なくとも政策当局者の意識としては、金融政策が為替相場の動向に対して極めてコンシャスに対応していたのがよく判ります。
最後に、本書は決してマクロ経済政策の理論から為替を理解しようとするものではありません。そうではなくて、日米両国における為替に対する政策の決定過程の記録に重点が置かれています。その意味で、理論面を重視すると物足りないかもしれません。例えば、ケースバイケースで円ドル相場を名目で考えたり、円の実質実効為替レートで考えたり、アドホックな部分もあります。アベノミクス以降、現在まで続く円安の理論的解明はなされていません。しかし、米国大統領が日本の閣僚の更迭を求めていた、といった部分もあったりして、ある意味で、一級の歴史的資料だと私は受け止めています。
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