似鳥鶏『叙述トリック短編集』(講談社)を読みました。
著者は、ミステリ作家です。私は『みんなで決めた真実』ほかを読んでいます。
本書は、巻頭に置かれた「読者への挑戦状」の冒頭で、「収録されている短編にはすべて叙述トリックが使われております」と実に率直かつ豪快に宣言されていて、実験的かつ意欲的な異色の作品集です。以下収録順に、あらすじを簡単に追います。
まず、「ちゃんと流す神様」では、詰まってしまった会社の女子トイレが、いつの間にかこっそり直されていて、トイレの神様は一体誰なのか、を解き明かそうと試みます。次に、「背中合わせの恋人」では、大学生の堀木輝が好意を寄せいた同じ写真同好会の平松詩織に接触しようとするが、その矢先に不可解な事件が起こります。次に、「閉じられた三人と二人」では、散弾銃を持った4人組の強盗が人里離れた山荘に逃げ込むが、そこで1人が殺されてしまいます。次に、「なんとなく買った本の結末」では、殺人事件の捜査の末にようやく見つかった容疑者にはアリバイがあって、というミステリ本の真相に迫ります。次に、「貧乏荘の怪事件」では、国際色豊かながら貧乏学生たちが住むアパートで、盗難事件が発生し、その盗難物の正体を明らかにするとともに、もちろん、犯人も推理します。最後に、「ニッポンを背負うこけし」では、各地のモニュメントに悪戯を続ける犯人を捕まえてほしいと、元大物政治家の依頼人がやって来て、犯行前に犯人を突き止めるべく奮闘します。
叙述トリックですから、倒叙トリックとは違います。どちらも、読者をミスリードしようとしている点は同じですが、倒叙トリックとはストーリーの冒頭で犯人と犯行が明らかにされ、それでも、読者をミスリードする記述や、あるいは、犯人当てのフーダニットや犯行方法を解き明かそうと試みるハウダニットではなく、どうして、そういった犯行に及んだのかというホワイダニットとして成り立つミステリです。ですから、叙述ミステリである本書の各短編では、犯人や犯行方法について明らにされてはいません。叙述を読者のミスリードに使って、犯人や犯行方法を判りにくくするミステリです。
はい、とても楽しめました。いい出来のミステリだと思います。
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