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2013年02月21日21:16

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乱歩は子どものヒーローだった

最近横溝正史を立て続けに再読しているのだが、横溝というと乱歩にも手を伸ばしたくなってくる。
横溝と乱歩は自分の中ではペアなんだよね。

江戸川乱歩という作家が好きである。
いや、好きというだけでは済まされないものがある。物心ついたころから乱歩は憧れだったのだ。
子ども時代には少年探偵団シリーズの書き手として心を捕らえられ、分別がつくようになってからは怪奇幻想小説の巨匠として魅惑された。

そもそも私が本に親しむようになったのは乱歩がきっかけだった。
小学二年のとき初めて読んだのが『三角館の恐怖』だった。不可能と思われる謎と最後の待ち伏せのシーンに魅了されたのだ。講談社から出版されていた6冊のシリーズは少年探偵団ものではなかった。いわゆる猟奇殺人っぽいものが多く、おそらく子ども向けにアレンジされたのだろうが、原作とさほど大きく変わっていなかったのではないかと思う。よって明智小五郎の登場しないものが半分ほどで、『三角館の恐怖』も探偵役は篠警部だった。

ポプラ社のシリーズに手を出したのはその後で、少年探偵団ものも殺人ものもどちらも抵抗なく受け入れていた。それでも少年探偵団の活躍にはワクワクさせられたものである。それが高じて、街で見ず知らずの人を尾行したりしたものである。
ポプラ社全巻を読破し、何度も再読した後で、海外のSFシリーズに手を出したのだが、おもしろいものはあったのだが、さほど夢中にはなれなかった。

中学になって新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』を読んだ。ここに収められた短編の多くは知らない乱歩だった。『人間椅子』や『鏡地獄』や『芋虫』に衝撃を受けた。
やがて横溝正史ブームで横溝作品を読み漁るのと並行して乱歩作品も読み漁った。文庫で20巻、少年向け以外のものは全て収録されていたように思う。

ここでさらに衝撃を受けた。
しかし、この衝撃は少々趣を異にした。
ポプラ社版で馴染んでいたものの多くの作品で探偵役が明智小五郎ではなかったのだ!
明智探偵に憧れた少年時代を送った私にとってそれは天地がひっくり返るような衝撃だった。

実はポプラ社版は探偵役を全て明智小五郎にしただけでなく、少年向けにリライトされていたのだ。これを手がけたのは氷川瓏(ひかわ・ろう)という作家だと言われている。乱歩の作品だと疑うことなく読んでいたものが、実は別人によって書き直されたものだったとは…。
その当時は裏切られたような気になったものだが、子ども向けにおとなしく翻訳したと思えば、まあそれもありなのだろう。
コーヒーにはミルクを入れて飲みなさい、というようなものだ。

題名も変わっているのもあって、覚えている範囲で「原題 → 改題」で記すと…。

吸血鬼 → 地獄の仮面
悪魔の紋章 → 呪いの指紋
化人幻戯 → 白い羽根の謎
黒蜥蜴 → 黒い魔女
妖虫 → 赤い妖虫
十字路 → 死の十字路

数年前ポプラ文庫から乱歩作品が表紙絵と挿絵をそのままに文庫として復刻されたのだが、少年探偵団ものの26冊だけとなっている。
27巻目以降のリライト作品はなかったことにされてしまっているのだ。これらは乱歩ファンからの評判も良くないらしい。他者によるリライトでは仕方ないと思う反面、もう一度読んでみたいという気もする。どういうふうにリライトしたのか知りたいようにも思うのだ。

『地獄の仮面(原題:吸血鬼)』でヒロインが棺桶に入ってそのまま火葬にされそうになる場面が怖くてね。
恐怖というものを乱歩に教わったような気がする。

うちには今、乱歩のシリーズは二種類ある。
光文社から文庫版で出ている最新版の全集。これは少年ものや評論を含んだ現在最も信頼できる名実ともに全集と呼ぶべきもの。
もうひとつは先に述べたポプラ文庫版少年探偵団シリーズ。貴重な(?)BOXセットである。
当然後者は前者に含まれるわけだが、表紙も挿絵も目次も当時の復刻ということで、これはファン必携のアイテムと言える。

乱歩はサービス精神旺盛だったのだなと思う。
それが子どもの心を捕らえたとともに、大人向けのものでは物語の破綻を招く両刃の剣だったわけだ。
怪人二十面相というアンチヒーローを作り、少年探偵団という正義派のチームとの知恵比べ。そこに乱歩は惜しげもなくトリックを注ぎ込んでいる。子どもを喜ばせることを楽しんでいたのだろう。
怪奇幻想分野での短編は世界を探してもこれほどの書き手はそういないだろうと思われる。乱歩が作家として評価されるべきは何よりもこの分野でなのかもしれない。
その代わり、長編本格ものはあまり上手いとは言えなかったのが実情だ。怪奇趣味・猟奇趣味を盛り込んで収拾がつかなくなってしまったものも少なくない。
そこを補うのが横溝正史であろう。
ただ揶揄を込めて通俗長編と呼ばれる乱歩作品も楽しめる作品は少なくない。むしろ極力謎解きに徹した『化人幻戯』などは乱歩らしい雰囲気が影を潜めてしまい物足りなさを感じてしまうくらいである。
その作り出す世界ですでに孤高の大家だったのだなと思う。

ちなみに、横溝正史の戦前の作品も耽美幻想の世界で、後の金田一耕助ものとは趣を異にする名品が多い。
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