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2011年08月30日22:09

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ちょっとこのタイトルは…

たぶんタイトルだけを見たのならこの本を手に取ることはなかったろうと思う。

『芸術家たちの秘めた恋』 集英社文庫

7月の新刊で、平積みになっていたのだ。
で、ふと目に入ったのだ。「あれ? メンデルスゾーンじゃないか?」
タイトルよりも先に表紙の肖像画が飛び込んできたのだ。確かにそれはメンデルスゾーンだった。
副題には「メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代」とある。
著者は中野京子。そう、あの『怖い絵』シリーズで話題のノンフィクション作家である。

私はメンデルスゾーンの音楽が大好きなので、迷わずゲット。

極貧の中から自力で這い上がったデンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン。
富裕な家に生まれ全てを与えられながらもユダヤ人差別に悩むドイツの音楽家フェリックス・メンデルスゾーン。
そして、両親の愛を知らずに育ったスウェーデンのソプラノ歌手ジェニー・リンド。

物語はこの3人を中心に進んでいく。
いちばん知られていないのはジェニー・リンドだろうが、母国の硬貨にその肖像が使われたというほどで、世界的な人気を博した歌手だったそうだ。アンデルセンもメンデルスゾーンもその作品を知ることができるが、残念ながら彼女の歌は残っていない。

それにしても、メンデルスゾーンとアンデルセンがお互いを尊敬しあう友人同士だったとは知らなかった。

アンデルセンの恋情はわかった。リンドの慕情もわかった。
そうなるとメンデルスゾーンは? 
謎である。

モーツァルトに匹敵する神童と言われた彼は、常識人で穏やかな人柄であったという。
当時彼はセシルという美しい妻と子どもに囲まれ幸せな家庭を築いていた。
スキャンダルの入り込む余地はない。事実そうだったのだろう。しかし心の中までは誰もわかるまい。節度ある紳士であった彼がそうそう簡単に自分の心の内を明かしていたとも思えない。
アンデルセンもリンドも自らの恋心をさほど秘めてはいなかった。
となると、秘めていたのはメンデルスゾーンだったのでは、とタイトルの裏を考えてしまいたくなる。

いや、尋常でない御仁の多い大作曲家の中にあって清廉潔白な人がいてもいいと思う。

実際のメンデルスゾーンは単なるお金持ちのボンボンではなく、相当骨っぽい人だったようである。ある意味音楽史に大きな影響を与えた人とも言える。
彼がマタイ受難曲の復活上演を行なわなければ、バッハは忘れられたままだったかもしれない。すくなくとも後のバッハ受容の歴史は変わっていたはずである。
また、近代オーケストラの仕組みを整え、団員の地位向上に奔走し、さらに指揮者の役割を確立した。現在よく知られる指揮は彼によって確立されたものだし、指揮棒を使ったのも彼が最初だとされている。
もうひとつ、同時代の作曲家に対して惜しみなく支援を行なった。彼の支援がなければ歴史に名を残せなかった人もいたかもしれない。

もちろん、いちばん素晴らしいのは残されたたくさんの曲なのだが。

アンデルセンやリンドが晩年そして死後も大きな栄誉に包まれたのに反し、メンデルスゾーンの栄誉は貶められる。
ユダヤ排斥である。
メンデルスゾーンの音楽の評価が同時代の、たとえばシューマンやショパンやリストに比べて、低いのにはそのユダヤ排斥が影響しているのだと言われている。
そう一時は音楽史上から抹殺されたようなものだったそうである。
メンデルスゾーンの復権はいまだ途上である、ということかもしれない。

なにはともあれ、興味深く読めた。
題名から想像されるようなゴシップ的なネタはないが、メンデルスゾーンに関する本はあまりないので、そういう点でも価値あるものだと思う。

で、この本を読んで初めて知ったのだが、38歳という若さで夭折したメンデルスゾーンの死因はわからないのだという。
そこにミステリーを感じてしまうのは穿ちすぎだろうか。
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