五月も今日でおしまい。
『五月の最後の日』という曲があるのをご存じだろうか。
70年代に活躍したアメリカのバンド、ブルー・オイスター・カルト(以下略してBOC)のデビュー・アルバムに収められた甘美なバラードである。音だけを聴けば、だが…。
当時BOCはエアロスミスやKISSとともに東海岸三大バンドというふうに言われていた。しかし、その座はすぐにチープ・トリックに追われることになる。
ワイルドなロックンロールのエアロスミスも、派手なコスチュームのわりには非常にポップなKISSも、どちらも本国だけでなく日本でも受けた。しかし、BOCは本国でもマニアックな扱いに留まっていたという状況だった。
ヘヴィ・メタルという音楽のルーツのひとつとも言われる彼らの音楽は、終末観やオカルト趣味に溢れたいわば負の音楽だったのだ。実際にはさほどヘヴィではなく、むしろポップで、ヒット曲もあり商業的な成功を収めているのだが、どんな時代でもマイノリティの帝王のような存在感だった。
さて、五月の最後の日、原題は『Then Came The Last Days Of May』。
そんなバンドのバラードだから、尋常な内容であるわけがない。官能的なギターのメロディーに導かれる世界は救いのないものだった。簡単に言ってしまえば、ドラッグの売買に巻き込まれた少年がわけもわからず殺されていく、というストーリーである。
爽やかな五月に全く相応しくない曲なのである。
病めるアメリカを背徳と知性というオブラートにくるんで提示して見せたのがBOCというバンドだったと言えるかもしれない。
演奏能力も非常に高く、その当時のバンドとしては群を抜いて上手かった。しかし、そのミュージシャンシップの高さがその音楽を一見とっつきにくいものにしてしまっていたのかもしれなかった。
昔から大好きなバンドである。
バンド名を冠したデビュー・アルバムの邦題は『狂気への誘い(いざない)』。
今と違って「狂気」という言葉が恐ろしげなる響きを持っていた時代。
収録の10曲全てに邦題が付けられていた。
『悪魔同盟』『赤と黒』『五月の最後の日』『星への階段』『キスの前にはドラッグを』『夜の叫び』『汚れた天使』『炎の街』『悪魔ののぞき眼鏡』『底なし地獄』
といった具合で、いかにもヤバそうなタイトルばかりである。悪魔という響きもまだ当時はインパクトがあったのかもしれない。
病めるアメリカを描いたものとして、イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』が表だとすれば、BOCのこのアルバムは裏という言い方もできると思う。
実は日本では5枚目のアルバムに収録された、日本語のアナウンスが入る『ゴジラ』がいちばん有名だったりする。そう、あの日本生まれの怪獣ゴジラをテーマにした曲である。一時期ヤンキース時代の松井選手のテーマとして使われていたこともあるらしい。
パロディかと思いきや、本人たちはいたって真面目にやっているのである。
もっとも、バンドの音楽性についてどんなに美辞麗句を並べたとしても、この曲の前では戯言にしか聞こえなくなってしまうのだが…。
まあ、そこが憎めないんだけどね。
終末的世界観で狂気と理性の狭間を描くBOCの音楽。
陽の光よりも月の翳りが似合う音楽のそう遠くないところにラヴクラフトが見える。
五月の最後の日、拳銃で頭を撃たれた少年たちは最後に何を見たのか。
砂埃の舞う五月にしては焼け付くような陽射し。
ぼろきれのように捨てられた少年たち。
あるいは生きていたとしてもドラッグの売人になっていただけだったのか。
残虐性と抒情性で社会の闇を切り取ったブルー・オイスター・カルト1972年の名曲。
五月の最後の日に『五月の最後の日』を聴いて世の中の不条理を思う。
明日から六月、梅雨の季節である。
動画ではないけれど…。
ログインしてコメントを確認・投稿する