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2011年03月10日22:20

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フィルおじさんが引退

フィル・コリンズが引退を表明したそうだ。
二度目の引退宣言。つまり、前回は撤回したということだ。
今回は本気かもしれないなあとも思う。

これで全盛期ジェネシスの復活は完全になくなってしまった。

90年代以降の音楽ファンにとってフィル・コリンズはソロ・シンガーというイメージだろう。ソウル・ミュージックやモータウンを愛する気のいいオッサンというイメージが強いのではないか。
しかし、私にとってのフィル・コリンズはまずハイテク・ドラマーなのである。歌なんぞ歌わんでいいからドラム叩いてろ、と乱暴なことも言いたかったくらいだ。

先に全盛期ジェネシスと書いたが、彼が在籍していたジェネシスが商業的に成功しビッグ・ネームとなったのは実は80年代以降にポップ化してからである。
もともとジェネシスというのは英国プログレッシヴ・ロックを代表するグループだった。物語性の高い引きずるようなロマンティシズムをシンフォニックなサウンドに乗せるというスタイルで後世に大きな影響を与えた。あの時代のヨーロッパ、ジェネシス・クローンと思しきバンドがどれだけあったことか。
フィル・コリンズはそこで非常に技巧的なドラムを叩いていたのだ。

影響? 受けましたよ、そりゃあ。
彼はサウスポーだったので、プレイそのものを見ると何となく落ち着かないのだが、フレージングは勉強になった。変拍子の処理もとっても上手かった。
そもそも彼を含めたジェネシスというバンドが好きで、自分がバンドをやっていた頃は70年代ジェネシスが理想形のひとつだったことを告白しておく。もちろん、クローンになるつもりはなかったが。

70年代中盤、ヴォーカルのピーター・ガブリエルが脱退したことで、フィルがヴォーカルを兼任することになる。声質が似ていたこともあって、違和感なく受け入れられた。
その後、ギターのスティーヴ・ハケットが抜けたあたりからポップ化が加速し始める。
それでも、シンフォニックなアレンジは健在で、いくらポップになったとはいえ、お里が知れているといったあたり、昔からのファンにもおおらかに受け止められていた。70年代から80年代という激動の音楽シーンを、音楽性を変化させつつ常に一線級で活動を続けてきた稀有なバンドだと言えるだろう。

かつてのピーター・ガブリエル、あるいはフィル・コリンズに注目が集まるのは仕方のないことだが、ジェネシス・サウンドの核を担っていたのはキーボードのトニー・バンクスとベースのマイク・ラザフォードである。ことにトニー・バンクスの繊細で技巧的なキーボード・サウンドがジェネシスのカラーを決めていたと言っても過言ではない。当時のマルチ・キーボード奏者としてはキース・エマーソンやリック・ウェイクマンの影に隠れてしまいがちだが、勝るとも劣らない名手である(いや、むしろ私は彼らよりも秀でていると思っている)。

フィル・コリンズに話を戻すと、彼が凄腕ドラマーだったことは先に書いた。
聞くところによると、一昨年の脊髄の手術で手を動かすのに影響が出たらしい。ドラムを叩くのが困難になったということだ。まだ歌があるから絶望はしていない、とコメントしたそうで、モータウンのカバーアルバムをヒットさせている。その矢先の引退発表である。やはり根っこはドラマーだったのだろうか。
訃報でないだけずっとマシだが、それでも淋しい。

実はうちにはフィル・コリンズのソロ・アルバムは1枚もない。
今までも、そしてこれからも、私にとってフィル・コリンズはジェネシスのドラマーなのだ。それだけで孤高の存在なのである。

写真はジェネシス史上最高の抒情的な名曲(と私は思っている)『Firth Of Fifth』の入った1973年のアルバム『Selling England By The Pound』。流れるような巧みな変拍子が炸裂する『The Cinema Show』も入っている。ピーター・ガブリエル在籍時の名作だが、フィル・コリンズが初めてリード・ヴォーカルを取る小曲『More Fool Me』もある。
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