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2010年09月07日23:47

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三浦友理枝@オペラシティ・リサイタルホール

ずいぶん先だなあ、と発表があったときには思ったものだが、とうとうその日が来てしまった。
オペラシティ・リサイタル・ホールでの「B→C」コンサート。「バッハ(B)からコンテンポラリー(C)」と題されたとおり、バッハと現代音楽をプログラミングすることが必須。それ以外は奏者が自由にプログラミングできる。
満を持して新進のピアニスト三浦友理枝嬢の出演だ。
現代音楽に強い技巧派という彼女の一面が存分に発揮されるリサイタルになるだろうと楽しみにしていた。
期待に違わず、いや、期待以上の素晴らしいリサイタルだった。
三浦友理枝という類稀なピアニストの実力をまざまざと見せ付けられたという点で忘れられぬものとなった。いやはや、末恐ろしいピアニストだ。。。

01.バッハ:フランス組曲第2番
02.ラヴェル:古風なメヌエット
03.メシアン:鳩、軽やかな数(前奏曲集より)
04.メシアン:ダイシャクシギ(『鳥のカタログ』より)
05.フランク:前奏曲、コラールとフーガ
<休憩>
06.シマノフスキ:ピアノ・ソナタ第3番
07.リゲティ:ワルシャワの秋(練習曲集第1巻より)
08.バーバー:ピアノ・ソナタ
<アンコール>
09.ラヴェル:メヌエット(『クープランの墓』より)

開演19時で、アンコールが終了したのは21時をゆうに回っていた。
難曲ばかりズラリと並べたプログラム、体力的にも相当消耗したのではないかと思う。

バッハはいつもよりも少し遅めかなと感じたのだが、そんなことはなかった。9分弱くらいだったろうか。情緒的ではないサラッとした質感のバッハだが、メロディーの歌わせ方が上手い。自然なカンタービレは彼女の個性だ。

ラヴェルの『古風なメヌエット』はチャーミングな曲。ライヴで聴くのは久しぶりだ。彼女のラヴェルは基本的に真面目で、小洒落た雰囲気には欠けるのだが、その代わり磨き抜かれた美音で聴かせる。バッハの舞曲集のあとの時代を経たメヌエットという位置付けか。

メシアンの『鳩』と『軽やかな数』は前奏曲集から選ばれている。前奏曲という性質上いずれも小品だ。小品ゆえにとらえどころがないという感もある。
『ダイシャクシギ』はメシアンにしか成しえなかったというような曲集『鳥のカタログ』の最終曲となる。演奏時間は10分少々。鳥の囀りや回りの音をそのまま音符にしたような曲で、メロディーやハーモニーやリズムといった既成の音楽から著しく逸脱したもののように思える。それゆえに相当な難曲なのではないかと思う。
彼女の演奏で聴くのはこれで二度目である。最初は昨年3月の東京文化会館でのリサイタルだった。そのときも感心したものだが、今日はさらにすごかった。完璧な技巧と音色のコントロール。寒々とした海辺の光景を遺憾なく描ききっていたと思う。彼女の奏でる音はときとして非常に官能的でもあった。
手元がバッチリ見えて、とてつもない曲だということを実感した。。。
この『ダイシャクシギ』だけで十分チケット代の元は取れる。3000円で『ダイシャクシギ』1曲だったとしても、絶対に聴きに行く。そのくらいすごい。

フランクの曲はこの中では知名度の高い方だとは思うが、人気曲かどうかというと疑わしいところだ。優美なヴァイオリン・ソナタがむしろ例外なくらいで、フランクの曲は渋いものが多い。前奏曲こそ綺麗なフレーズが出てくるが、全体的に瞑想するような内省的な音楽が続く。演奏効果も狙えないし、キャッチーなメロディーがあるわけではない。演奏家によってはメチャクチャつまらない曲に聴こえてしまうのだ。彼女は持ち前のクリスタルのような高音と強靭な低音を駆使し、光と影の微妙なコントラストを描き分けていく。最後の最後で見える光明での解放されたかのような(あるいは、浄化されたかのような)明るい響きが素晴らしい。

ここで休憩。すでにフル・リサイタルを聴いたかのような充足感だ。

後半はシマノフスキのソナタから。
稀代の難曲として知られる2番同様に3番も相当な難曲。というか、シマノフスキのピアノ曲はどれもが最高レベルの技巧を要求するものなのだろう。しかも、シマノフスキには独特の雰囲気が大切で、それが出せるかどうかで印象が大きく変わる。技巧に任せて弾き倒してしまっては、シマノフスキになり得ないのだ。
その雰囲気とは一種の官能性と言えると思う。妖しさと言ってもいい。世紀末的な空気感が濃厚なのだと思う。神秘的、幻想的、陶酔感、そのどれもが当たっている。
彼女は清潔感のある演奏で存分に聴かせる。透明感のある音色で極めて美しいシマノフスキになっている。妖しさには欠けるが、響きの美しさという点では耽美的でさえある。キラキラした目くるめくような音世界。しかし、彼女が本当にすごいのは、終曲のフーガを極めて構築的に演奏しているところだ。

リゲティの『ワルシャワの秋』はまさしくポリリズムの権化のような曲。楽譜を見てもどう演奏していいのかわからないような曲。本当にひとりで演奏できるのだろうかと思ってしまう。手元を見てもやっぱりわからない。ただ、凄いものを見たというのはわかる。
デビュー間もなくの頃「現代音楽も弾いていきたい」と言っていたのを思い出す。茨の道を選んだのだな、と思ったものだが、今こういう形で結実したことに感慨深いものがある。
どことなく感傷的な詩情を漂わせた名演。彼女の音楽はすでに技巧を超えたところにある。

プログラム最後はバーバーのソナタ。
ちょっと意外な選曲という気がしていた。とはいえ、『弦楽のためのアダージョ』をイメージすると見事に裏切られるような曲だ。ただ、調性が残っているので聴きやすいとは思う。前衛的な音楽ではないが、聴けば聴くほどいい曲だと思える。
全体的に技巧的で悲劇性の強い曲という印象だ。
今回彼女のド迫力の低音がいちばん効果的に響いた曲だったかもしれない。ここでもキモは終楽章のフーガか。速くて激しい曲が実に彼女に合うのだ。もちろん、第3楽章の哀しげなアダージョも繊細で見事。

これほどの難曲ばかりのプログラム、メンタル面はもちろんフィジカル面でも相当消耗しているはずだ。よって、アンコールはなくていい、と思っていた。
ところが、あたりまえのようにアンコールを演奏してくれた。
クールダウンするかのようなラヴェルの『クープランの墓』からメヌエット。食事の後のミントチョコのような感じ。

家で予習をしていたときには、たぬ〜は「今回はちょっとしんどいかも」と思ったのだそうだ。
ところが、十分に楽しめたらしい。ライヴということもあるだろうし、手元が見えたということもあるだろうが、やはり彼女の演奏がそれだけ聴かせるものだったということだろう。

三浦友理枝というピアニストはいつもワクワクさせてくれる。
演奏自体もワクワクするような魅力があるし、次はどんな曲を取り上げるのだろうという楽しみもある。
もっともっとこうした20世紀の音楽も演奏していって欲しいと思う。もはや彼女をアイドル・ピアニストと見る向きはいないだろう。話題的にはルックス先行の部分があったことは否定しないが、ようやく実力者として認められてきている。
華奢で可憐なルックスの若手ピアニストが見事に難曲を料理する。これは痛快だ。

そろそろこういう曲を集めたアルバムも作って欲しいと思う。
たとえば、シマノフスキ作品集、リゲティの練習曲全集、メシアン作品集(できれば『鳥のカタログ』全曲)、今回のプログラムにはなかったがスクリャービンのソナタ全集、などなど。今日のプログラムのような20世紀音楽集のようなものでもいいかもしれない。
セールス的には期待できないと思うが(ぶっちゃけ、売れないだろう)、価値はある。ことに先に挙げた作曲家の作品は聴こうと思っても選択の幅が狭いのが実情。話題性は高いと思う。
意表を衝いてバッハのフランス組曲全曲なんていうのも悪くないな。

さて、終演後は疲れも見せずにサイン会。
やり遂げたという満足感からか晴れ晴れとした表情だった。
「いちばん前でしたよね」と彼女は悪戯っぽく言った。どうやら見つけられていたらしい。
最近、友理枝嬢はどんどんくだけてきている。
「次は仙台で」と彼女の方から先に言われてしまった。。。
ま、これも嬉しいことだね。

さてと、彼女が言っていた通り、次に彼女の演奏を聴くのは仙台だぞ、と。
欲張って7公演も取ってしまった。。。そのうち彼女の出演は4公演。
まだまだ楽しみはあるのだが、あ〜終わってしまったんだな、とちょっと淋しさも感じる。
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