mixiユーザー(id:3696995)

2010年04月22日22:45

91 view

今度はフランスの妖精?

クラシック・ネタばかりで恐縮だが、先日のアリーナ・イブラギモヴァに続いて、今度はピアニストを紹介したいと思う。

リーズ・ドゥ・ラ・サール(Lise de la Salle)、フランスの若手ピアニスト。まだ20歳を超えてちょっとという若さ。すでにアルバムを4枚リリースしているが、日本では知る人ぞ知るというくらいの認知度のようだ。
可愛らしいお嬢さんである。童顔だが、ちょっとキツイ顔立ちかな。
しかし、ピアノは凄いぞ。

凄いと言っても、大音量ド迫力で弾き倒すというタイプではない。微妙なニュアンスを弾き分ける繊細なタイプだと言ってもいいかと思う。
彼女のピアノの音は柔らかく暖かい。最近の若手では珍しいタイプかもしれない。
たとえば、三浦友理枝嬢の音色が寒色系だとするなら、リーズ・ドゥ・ラ・サールの音色は暖色系だ。

アルバムの選曲の仕方もユニークだ。2人の作曲家を対比させる形で選んでいる。
デビュー盤はラヴェルとラフマニノフ。2ndはバッハとリスト。ショスタコーヴィチとリストとプロコフィエフのいずれも1番の番号を持つピアノ協奏曲をカップリングした3rdを経て、最新盤はモーツァルトとプロコフィエフの2枚組み。

まずはその最新盤。
モーツァルト弾きとしてかなりのものだと思う。軽やかで玉が転がるような音色で奏でられるモーツァルトは耳に心地いい。さりげないたたずまいがいい感じだ。モーツァルト演奏は難しいと思う。楽譜を再現するだけではつまらないし、かといって身振りが大きすぎると胸焼けぎみになる。節度を持ちつつ情感豊かに、彼女はその難題をクリアしていると思う。冒頭の『ロンド イ短調』のそこはかとない哀愁に惹かれる。この曲は聴くのは初めてではないが、こんなにいい曲だったのかと思ってしまった。ホントにいい曲だが、聴かせる演奏をするのは難しいのかもしれない。これだけでも十分「買い」だ。
プロコフィエフでも暖かな音色というのは変わらないが、俄然技巧派としての一面が見えてくる。とんがっていた頃のプロコフィエフの難曲『トッカータ』が圧巻。敢えてメカニカルに作られている曲を一点の曇りもなく弾ききっている。たいてい誰が弾いても無機的に響くのだが、彼女が弾くと暖かく響く。コンクリートの冷たさではなく、木のぬくもりのようだと喩えられるかもしれない。
有名な『ロメオとジュリエット』のピアノ版からの6曲も聴き応えがある。劇的表現にも抒情的表現にも長けていることがよくわかる。

バッハとリストの組み合わせの盤もおもしろい。
やはり彼女のピアノの音色は暖かい。それでいてコロコロ転がるかのようだ。技巧的な不安は全くない。迫力で圧倒するタイプではないが、すごいピアニストであることは間違いない。
『半音階的幻想曲とフーガ』は胸のすくような快演。それでいて暖かい。彼女の音楽はなんでこんなに暖かいのだろう。決してぬるいのではない。心の深くにそっと入ってくるような感じだ。技巧的な『トッカータ ニ長調』も悪くない。いいバッハだ。
リストのピアノ曲は演奏効果は上がるが、聴くのにも難易度が高いというものが多い。甘美なメロディーを持った曲もなくはないが、むしろそうしたものの方が少ない。
『波の上を歩くパオラの聖フランチェスコ』は聖人の奇跡を描いた描写的な曲。『ペトラルカのソネット104番』は愛の喜びと悲しみを抒情的に歌う曲。『メフィスト・ワルツ第1番』は技巧性と深みが見事にマッチングした曲。そして、白眉は最晩年に近い頃の『悲しみのゴンドラ第1番』だ。この時期リストは限りなく無調音楽に近づいている。これはまだ調性は明確だが、不協和音が多用されている。音符の少ない深遠な世界。風変わりなバルカロール(舟歌)。素晴らしい曲なのだが、あまり知られていない。この曲を取り上げたということだけで彼女をリスペクトする。深く暖かい。彼岸に向かう船の揺らめきかだろうか。上手い語り口だ。

華やかなコンチェルトもいい。
ショスタコーヴィチという作曲家はイマイチつかみどころがなくて、曲から本音を探るのが難しい。悲劇的な身振りを額面どおりに受け取れないのが難しいところだ。ピアノ・コンチェルト1番はあまり大見得を切った部分がないので、本音に近いのではないかという気がする。喜遊的というか諧謔的というか、そういうショスタコーヴィチはおもしろい。しかし、この曲が好きかというと、微妙なところだ。とはいえ、彼女の語り口で十分楽しめる。繰り返し聴いたら気に入るかもしれない。
リストの1番は超有名曲。ここでも彼女の演奏はキラリと光るものを見せている。豪快さには欠けるものの、歯切れのいいタッチと繊細な歌心は魅力的だ。虚飾のない真摯な演奏だと思う。ローレンス・フォスター&グルベンキアン管も好演。弦の響きが美しい。
プロコフィエフはメロディーメイカーぶりを発揮した後期の曲にもいいものが多いが、初期のやんちゃな頃の曲がおもしろい。1番のコンチェルトはそんな才気煥発だった頃の曲。これは気持ちいい。爽快感のある快演。真の技巧派は技巧的なことを感じさせないという点で、彼女の技巧は素晴らしい。オーケストラの鳴りもいい。
で、冒頭に戻ってショスタコーヴィチを聴くと、さらにいい曲に聴こえてきた。

残念ながら、ラヴェルとラフマニノフの作品集はまだ入手できていない。

開催までもう2週間足らずとなったラ・フォル・ジュルネで彼女が来日する。
そこでようやく生演奏が聴ける。朝一のプログラムがあるので、これは演奏するほうとしてはツライかもしれない。そのぶんは差し引いて見てあげないと、かな。
ショパンのバラード全曲と葬送行進曲付きのソナタ2番という1時間のプログラム。まだショパンはレコーディングされていないので楽しみだ。映像で一瞬だけ4番のバラードを弾いているのを見たが、なかなかいいようだ。
あとは、午後にモーツァルトのコンチェルト。

しかし、先日のアリーナ・イブラギモアといい、このリーズ・ドゥ・ラ・サールといい、これほどの若手実力者(しかもチャーミング)が日本ではあまり知られていないというのはいかがなものだろうか。日本に紹介されている演奏家には偏りがあるなあと改めて感じる。
このふたり、まだ若手ではあるが、大物の予感がプンプンしている。

写真左、バッハ&リスト
写真中、コンチェルト集
写真右、モーツァルト&プロコフィエフ(DVD付き)
0 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2010年04月>
日 月 火 水 木 金 土
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930