今日はひな祭り。
一昨日、だるま市の話題を出しておきながら何なのだが、3月3日(近辺)のわが家の恒例は村治佳織嬢のコンサート。「transit」シリーズと題された、王子ホールから何をやってもいいと言われているシリーズ・コンサート。よって通常のコンサートとは異なったコンセプトのこの場だけのプログラミングになる。今回ですでに6回目だ。つまり、年に1回は彼女のギターを聴いていることになる。
正直に言うが、今回は知らない曲ばかりだ。
このコンサートはむしろそういうことの方が多い。コンサートの一回性という点を改めて感じるし、未知のものとの出会いという楽しみもある。
今回は大曲ソナタ3曲と、マドリッドの楽譜屋さんで見つけたという現代曲の小品を中心としたプログラム。その現代曲なのだが、日本の女流歌人の短歌と併せて楽譜になっているらしい。以下のセットリストにはカッコ内にその歌人を記しておく。
01.ロドリーゴ:ソナタ・ジョコーソ
02.カブラル:情熱的な歌(短歌:二条后)
03.ブローウェル:アルバムの紙片「水のしずく」(短歌:紫式部)
04.トゥリーナ:ソナタ ニ短調
<休憩>
05.バルガス:月〜4つのフレーズ(短歌:尼敬信)
06.ブロトンス:ひとりごと(短歌:皇嘉門院別当)
07.ソテロ:不可能な愛(短歌:紀乳母)
08.ホセ:ソナタ
09.ランチャレス:呼びごえ(短歌:伊勢)
10.モンサルバーチェ:アダジェット・スピリチュアーレ(短歌:和泉式部)
<アンコール>
11.ロドリーゴ:小麦畑にて
12.ビートルズ:イン・マイ・ライフ
13.ディアンズ:タンゴ・アン・スカイ
短歌の付いた曲には演奏前に彼女の歌詠みが入る。
なかなか雅でよろしい。もともと朗読の才能もある人なので、落ち着いた声がいい感じだ。しかし、スペイン(あるいはポルトガル)の作曲家が女流歌人にインスパイアされて曲を作っていたとは、驚きでもあるし、非常に興味深い。と同時に、日本人でありながらそうした古典文学に通じていない自分を恥ずかしいとも思う。
まあ、それはともかく、いつもながら繊細で美しい音だ。ダイナミズムに欠けることもないし、スケールが大きい。表現の振幅は大きいが、一貫して抒情的だ。すごいギタリストだなあ、といつも驚かされる。
今回は嬉し恥ずかし最前列のド真中という席。これほどの至近距離で聴けるという機会はもうないのでは、と思ってしまう。指使いがはっきり見えるのはもちろんのこと、息遣いまで聞こえる。
現代曲というだけあって、聴きやすいとは言えないかもしれないが、ひとつひとつの音を追いかけて行くだけで結構楽しめる。なんとなく短歌との関連性もわかるような気がした。不思議なことにどの曲も静謐感が漂っている。遠い国の人たちが思う日本の無常感というものなのかもしれない。なかなか興味深い企画だった。このシリーズならでは、と言うことができるだろう。
3曲のソナタはいずれも聴き応えがあった。中でもホセのソナタは情熱的かつ抒情的で、聴かせる曲だ。
アンコールの『タンゴ・アン・スカイ』は最高にカッコいい曲。ビートルズで終わってしまうのはちょっとなあ、と思っていたところに最高のプレゼントだった。
はたして、来年はどんなプログラムを披露してくれるのか、今から楽しみである。
来年も3月3日。「いずれはひな祭りらしい楽しいプログラムを…」と言っていたから、まだまだしばらく続くようだ。こちらとしてはマニアックなプログラミングも大歓迎。一期一会の緊張感、それもコンサートの醍醐味だと思う。
たぬ〜は快復途上だが、とりあえずコンサートを楽しめるくらいには持ち直してきた、ということのようだ。
さて、来週も王子ホール。今度はボッケリーニの名曲『スターバト・マーテル』を聴く。
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