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2024年02月25日11:36

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本棚612『優しき歌』立原道造(角川文庫)

 「夢みたものは ひとつの幸福 ねがつたものは ひとつの愛 山なみのあちらにも しづかな村がある 明るい日曜日の 青い空がある」(『夢みたものは······』)

 「しあはせな一日は幾つあつたらう 日の終わり 疲れた橋に身を凭れ かぞえてゐれば 靄のなかにともる燈は煌めいて 人の数の千倍のしあはせが 一人のためにあるのだと やさしい調べで繰返してゐた」(『しあはせな一日は』)

 先日、『新美の巨人たち』の番組で立原道造が設計したヒアシンスハウスが取り上げられていて、実際に観に行った。メタセコイアが立ち並ぶ、浦和市郊外の別所沼のほとりに、その小さな5坪ばかりの家は佇んでいた。詩人の詩に多く現れる「やさしさ」や「しあはせ」という言葉を具現化したような、詩人の夢の結晶のような、明るく心地よい空間であった。

 「建築は凍れる音楽」という言葉があるが、大学で建築を学んだ立原道造のソネット形式の詩は、詩集の題名のように、優しく穏やかな旋律が全体を包んでいる。信州軽井沢の豊かな自然の中で作られた、多幸感に満ちた詩も多く、優美で可憐な詩風は一見星菫派のように見える。しかし、生きる意味を問うような詩も時折現れ、24歳で夭折した詩人に迫る運命を思うとはっとさせられる。単なる美しいものへの賛美ではなく、幸福にも寂寥にも鋭敏な若き詩人の魂が感じられる。
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