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2019年01月11日16:44

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伊藤重夫『ダイヤモンド・因数猫分解』

 漫画家の伊藤重夫さんから新刊を頂いた。書名は『ダイヤモンド・因数猫分解』(アイスクリーム ガーデン 2018年11月刊)。前作の『踊るミシン』が出たのが1986年だから実に32年振りの新刊である。そしてその前の第1作品集『チョコレート・スフィンクス考』が1983年。単行本はたったのこれだけ。だから今回の新刊が3冊目と言うことになる。氏の作品を愛してやまない人たちが2017年に『踊るミシン』の復刊プロジェクトを立ち上げ、同年に復刊を果たし、その延長で今回の本も刊行された。
 伊藤さんとは当時2度ほど会っている。出会いのきっかけは何だったのか今でははっきりとしないが、たぶん伊藤さんと親しかった知人の誰かから『チョコレート・スフィンクス考』をもらって読んだのがきっかけではなかったかと思う。この本は発行が「跋折羅社」となっているが、実質は私家版に近いものなので、書店でたまたま見つけて買ったとは思えない。
 何はともあれこの『チョコレート・スフィンクス考』を読み、大いに感銘し、自分の同人誌に紹介したりもした。1984年5月に五月女素夫(そとめ・そふ)と始めた同人誌「スフィンクス考」は伊藤さんの許可を得て名付けたものだった。
 今回の『ダイヤモンド・因数猫分解』には『チョコレート・スフィンクス考』の「『塔をめぐって』より」などがリミックスされて収められている。
 氏の漫画に感銘したのは何よりそこに詩が感じられたからだった。例えば次のようなフレーズ。

 私の右のポケットに
 世界をしのばせている
 正確に言うと
 銀河系宇宙
 この前私が盗んだものだ
 右手に力を入れると
 銀河は消えてしまう
 消滅するのだ

 私は海へ行き
 それを力いっぱいに投げた
 キラリともせず
 海の底に沈んでいったあと
 再び元の場所に
 もどっていった。

 時間がたてば
 星は顔を出す
 そして前よりも
 強く輝きを
 ましているだろう

 私が持っている間
 大切にして
 毎日みがいて
 いたんだから

 このフレーズは表題作とも言える「チョコレート・スフィンクス・アゲイン」の中で、主人公の女の子の心の声として綴られている。そしてこの作品の続きが長編『踊るミシン』となり、さらに新刊の中の短編「ママレードのプリンセス」にもつながっている。
 ユーモアと少しの倦怠感、そして乾いた抒情。それが伊藤重夫作品の魅力と言える。

 氏は現在、漫画から離れ、絵本や本の挿画家として活躍しているが、もう一度漫画を書いてもらえたらと願う。
 最後に会ってから30年以上経つ。2年ほど前、ひょんなことから知人である某出版社の社主が氏と親しいと分かり、3人で会おうかという話になったが、その時は氏が体調を崩していて実現しなかった。今回の出版を機に会う機会が訪れるかもしれない。その日を楽しみに待ちたい。
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