mixiユーザー(id:12569023)

2015年03月07日09:27

929 view

随筆「甦る楫取素彦」第182回

 島田三郎は全国唯一の廃娼県の実現は「光栄ある歴史」であり、「群馬県民の誇り」だから全国に広げ、東洋君子国の名と実を挙げろと叫んでいる。現在の群馬はどうか。知名度は最下位の部にランクされ、何等特色のない県とみられている。これは先人が築いた歴史の遺産を受け継いでいないことを意味し、現在のみに目を向けて刹那的に生きていることに他ならない。歴史に学ぶこと、そして先人の業績を尊重することは。この刹那主義を否定することだ。また別の言い方をすれば楫取が播いた種を尊重することを意味する。
3、廃娼後の群馬県民に望む (廊清会理事油谷治郎七)
 この人は先ず、次のように外国体験から語り出した。「外国にいる間最もいやで堪えられなかったのは、日本は売淫国だという名称である。世界中どこへ行っても、都の一番目抜きの場所に公の目立つ建築をもっている売淫婦はない。いかなる国にも日本のように血を売りつつも、税を払っている故をもって議員などに選ばれている国はない」と。「都の目抜きに」とは吉原遊廓などを指し、「血を売って、」とは、女に売春をさせながら遊廓の主が選挙によって議員に選ばれている実態を指す。
 油谷は、世界中どこに行っても日本の売淫婦が横行し醜態をつくしていると嘆き、しかるに、群馬県は世界に率先して廃娼を断行したと称えた。そして、群馬県に望むこととして、廃娼の精神を徹底せよという。それは個々の国民の心に純潔を植えつけることだ、日本は社会的風紀の病根に鋒先を向け売淫国などという不名誉を一掃しなければならないと主張し、「群馬県は日本に於ける社会病の研究所である。本県の実績いかんは直ちに日本がこの問題に鋭いか鈍いかの基準となるから県民の責任はすこぶる重大である」と訴えた。
「社会病の研究所」という指摘には深い意味がある。廃娼を実行した唯一の先進県なので、その成否をめぐり、様々な問題が生じたのだ。欲望と矛盾が渦巻く現実の社会、その中で一つの理想を実現しようとしたのが群馬であった。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「甦る楫取素彦」を連載しています。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年03月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031