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2015年03月01日20:05

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2/28没後50年 小杉放菴展―〈東洋〉への愛―@出光美術館

小杉放菴の名と絵は近代美術館で目にしていたから一応知っており、上手いなぁの感想はあったにせよ、それほど強烈な印象もなく、調べもしませんでした。

しかし今年1月に番組「東海道五十三次合作絵巻“日本画”を創った巨匠たちの旅立ち」(NHKBSプレミアム)をみてから、俄然小杉放菴について知りたくなったのです。

近代日本を代表する画伯横山大観・下村観山・今村紫紅・小杉未醒(放菴)が交替で筆をとりながら東海道を写生旅行し、『東海道五十三次合作絵巻』全九巻を完成させるさまをドラマ仕立てで紹介する番組。急速な近代化、西洋化の荒波の中で日本画はどうあるべきかが模索された時代、四画伯が道中激しい議論を交わしながら、新しい日本画を形成していく過程を探ります。

大観、観山、紫紅は日本美術院の重鎮で知っていますが、未醒って誰?イコール小杉放菴だと言うのに気づいたのは、不覚にも番組が始まってからの事。大観たちより一回りも若い洋画家が何故この道中に加わったのかという興味と大先輩と居ながら物怖じするでもなく大いに酒を飲み大いに議論する豪放磊落な人物像への興味がどんどん増していきました。知りたーい!そして何と絶妙なタイミングで回顧展開催。しかも、いつも説明が分かりやすい展示の出光美術館で。行くしかないでしょ!

http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html

「小杉放菴(1881-1964)の没後50年を記念して、油彩の壁画から麻紙の水墨画まで代表作をはじめとする約90件を一堂に会し、放菴芸術に一貫する東洋への愛を回顧いたします。
「金太郎」など優しい日本画で知られる放菴ですが、若い頃は夏目漱石が絶賛するほどの洋画家でした。しかし、パリに留学中、自らの価値観が大きく変わります。明治・大正・昭和の激動期を西洋の伝統に捉われずに、東洋を新しいかたちで表現し続けた放菴。出光佐三をも魅了したその清雅な心の源泉には、どのような東洋との出会いがあったのでしょうか。」

はたして期待以上に素晴らしい展覧会でした。小杉放菴という人、本当に才能にあふれ、志高く、ブレずわが信ずる道を行き、日本の画壇の行く末を案じ、ユーモアに溢れ、愛情深く、暖かい人柄だったんではないかなぁ。漫画も水彩も油彩も麻紙に描いた水墨画も南画も俳画も、それぞれによい。
そもそも洋画から日本画に転向するのも大変な事のように思いますが、本人は日本画か洋画かなどとジャンル自体には頓着せず、日本人・東洋人として持っているものを思いのまま描がこうとしただけなのかもしれません。大きな度量を持っていないと出来ない事ではないかと。「人或いはこれを転向という。自分はずっと続いた一本道だと思う」は彼の言葉。いいですねぇ。

紹介するにあたって、気に入った作品画像を捜したのにあまりなくてとても残念。構成に沿って少し紹介します。

第1章 蛮民と呼ばれて―日光〜田端時代
「日光東照宮」フォト
20歳頃の水彩画、上手ですよね。黒田清輝のように理知的な感じがします。

「牛久沼」
小川芋銭の家にいった時に描いた油彩。小品ながら印象派風の美しく長閑な絵。井半農半画の小川芋銭とは気が合ったそうです。

「漫画十五題」「放菴画册」フォト
軽妙な漫画の描き方は後の俳画風の絵にも通じるかな。

第2章 西洋画による洗礼―文展入選〜パリ時代

「水郷」フォト
近代美術館で見たことがある絵。シャヴァンヌに傾倒していたそうですが、なるほど似ています。他の絵に色合いがシャヴァンヌ風なものもありました。

「スペイン風景」フォト
パリでいろんな画家(ユトリロやヴラマンク、マティスなど)に影響を受けるんですね

「飲馬」フォト
横山大観に誘われて日本美術院展に出品した作品だそうです。日本画の中においても違和感ない作品。パーティ会場で一回り以上年上の巨匠に議論を吹っかけた血気盛んな放菴、それが大観との出会いで、画壇の現状に不満を持ち志高くする思いが意気投合したようです。この翌年に東海道旅行に出ています。

第3章 洋画家としての頂点―東京大学大講堂大壁画
安田講堂の壁画を描いていたんですね。全共闘の占拠事件の時、壁画は無事だったのかしら。

第4章 大雅との出会い―深まり行く東洋画憧憬の心
パリに留学した放菴が出会ったのは池大雅の「十便帖」。ちょうどヨーロッパの伝統の重みに押しつぶされそうになっていたし、欧州絵画の主流はリアリスムより自由な空間原理をさぐる事にあったので、むしろ文人画にこそ求めていた表現があると気づいたそうです。また、日本の洋画界を席巻していた絵具を塗り重ねてコテコテ描いていく技法(岸田劉生などの絵か)では、日本の美しき風景は描けないと批判もしています。「日本の風景画は愛らしく明かるべきもの」と言っています。この辺りが、放菴の魅力的なところなのでしょうね。
この章では、池大雅や青木木米の画とそれにインスパイアされた放菴の画が並べて展示されていてとても興味深かったです。なかでも「大雅堂瀟湘八景扇面小皿」は、大雅の絵を放菴が扇面型皿に模写して板谷波山の窯で焼いたもの。出光の所蔵品ではないのだけれど、出光美術館ならではの展示ですね。

第5章 麻紙の誕生と絵画の革新―〈東洋回帰〉と見られて
大正期には、大観らの影響もあり、日本画の画材に関心が高まります。洋画の主題を屏風、金箔地、絵巻に、南画の主題を油彩画へと、様々な媒体に試していて面白いです。さらに大正末期には平安の麻紙(まし)が復元され、放菴の水墨画はさらに独自の風合いを呈します。

「ブルターニュの村の八月」
二曲一隻の絹地屏風に鉛筆と水彩で描いたとは、びっくり!

「黄初平」フォト

「或る日の空想」
すこしシュールな、でも、東洋的な作品。気に入りました。そうか、文人画って独特な空間表現をするものね、ある意味シュールです。

「帰院」
フォト

夏山を表す楕円の点描。構図もすばらしく、観ていて気持ちよい絵。

第6章 神話や古典に遊ぶ

「白雲幽石図」
フォト

本展で一番気に入った作品のひとつ。独特の質感(麻紙による墨の風合い?)の大きな岩の上にちょこんと乗っている仙人みたいなのが本人らしい。石もまるで宇宙に浮かんでいるようで、何とも不思議。いいなぁ、、、。

「さんたくろす」
フォト

寿老人がサンタに!素敵過ぎます!ポストカードになっていたら買ってクリスマスにみんなに出したい。

「洞裡長春」フォト
さくら☆さん同様、私も気に入りました。

「天のうづめの命」
フォト

出光がタンカーの船長室を飾る絵として注文したそうです。モデルは笠置シズ子なんですって。明るくユーモアに満ちた絵です。こんなに楽しそうでは天照大神は必ずや出てくるわね。

「老子・黄初平」
牛の笑ったような表情、子山羊の口ずさむような表情、可愛くて暖かくて、観ていて本当に楽しい。

第7章 十牛図の変容

「金太郎遊行」フォト
お孫さんをモデルにしたそうですが、熊も鳥もうさぎも愛らしいことこの上なし。

「田父酔帰」
絹本金地に彩色。これもまた一番気に入ったひとつ。
酔って牛の手綱を放してしまった老爺。自由になっても立ち止まって逃げない牛を見て、突然、牛と自分が一心同体だったのだと気付いた場面だそうです。牛は真の自己を表しているとか。
牛の表情と老爺の表情の対比が効果的、すっと伸びた手綱が視線の移動を誘います。構図の確かさ、筆跡の特徴(牛の身体と老爺の衣の襞など)何もかもがいいのです。

第8章 画冊愛好―佐三との出会い

出光佐三は、日本の風土を愛し描く放菴を、仙涯和尚と相通じると絶賛して庇護、コレクションしたそうです。
「奥の細道 十二題」フォト
なるほど、仙涯と同じ、飄々とした味がたまりませんね。

第9章 安らぎの芸術―花鳥・動物画

放菴の墨跡には本当に温もりが感じられます。少しメルヘンチックな。麻紙の風合いによるものかもしれないけれど、生き物だと余計感じますね。牛、木菟、兎、山鳥・・・・
ショップで図録をみたら後期展示となる「春昼」という作品、縦長の掛け軸に、上部に紫木蓮、下部に寝る猫が描かれています。猫はシルバータビーのアメショのようで、重ねた手足の肉球も見えていて、その風合いがとても柔らかそう。ううむ、これは実物を観てみたかった〜
でもちょっと既視感があったので検索。近代美術館にありました、「椿」
フォト
この猫が「春昼」では肉球を見せて寝ています。いいでしょう〜みたい!

でも前期の最後はこれで決まり。
「梅花小禽」
フォト

素晴らしい襖絵です。琳派を思わせる絢爛さがありますが、目線が枝を追えるように出来ている完璧な構図に、墨跡の温かみが何とも言えません。そして目線が行き着いたところに鳥とキノコが。うっとりして眺めました。

画像がないものが多く、うまくお伝えできませんでしたが、お勧め展覧会です。3月29日まで

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