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2021年06月12日14:08

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本棚391『村上春樹と柴田元幸のもうひとつのアメリカ』三浦雅士(新書館)

 翻訳を通じて、互いに教え合い教わり合う村上春樹と柴田元幸との関係。魅力的な訳文を村上がざっと作り上げ、細部をプロの目から柴田が指摘し整える。豪速球を投げる村上を、柴田が的確にリードする姿はまさに理想のバッテリーのよう。村上の小説を単に喪失や悲哀の物語として捉えるのではなく、主人公たちの悲哀そのものが人間を勇気づけるようなところがある、と柴田は言い、よき理解者でもある。

 著者と柴田元幸との対談も興味深い。アメリカ文学を「自分勝手な人たちの文学」と呼び、自分が中心になって世界が回っていて、「他人がいて、他人の痛みがすごく切実でそれについてどうしたらいいかといった問いかけ」がないと柴田は指摘するが、このようにアメリカ文学全体の本質を大局的につかみ取る。一方で、シカゴと蒲田と場所は離れていれど工業地帯として柴田と似通った故郷を持つダイベックについて、詩情ある繊細な作家評、作品評を行っている。

「「なつかしい」と「うつくしい」が一致しがたいサウス·サイドを描くなかで、ダイベックはそこに、ふっと天使の影をよぎらせたり、不思議な言葉で呟かれる老婆たちの祈りを響かせたりして、つかのまの「うつくしいなつかしさ」を、あたかもささやかな救済のように忍び込ませた。」
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