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2019年11月24日10:47

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本棚221『点と線』松本清張(新潮文庫)

 タイトルが多くの意味をはらみ魅力的であることは、名作の条件かもしれない。

 無数の電車が行き交う東京駅。十三番線のホームから十五番線の博多行き特急《あさかぜ》が見えるのは、たったの四分。この「四分間の目撃者」をつくったのは作為か偶然か、という疑念から、心中事件と汚職事件とが絡む「社会派ミステリー」の謎解きが始まる。

 鉄道時刻表を駆使するところから、「点」は駅を「線」は線路を指すのか。それとも、線を引くかのように地を這い進む鉄道と、その翼で点と点とをつなぐ飛行機の比喩か。はたまた、星のように無数に存在する事象である「点」を、星座を紡ぎ出した古代の人々のように想像力によって「線」でつなぎ、真実を明らかにする営為を指すのか。逆に、別個の事象を線で結び、他の姿を生み出す犯人の視点か。
 何が「正解」かは分からないが、人間の栄誉や幸福のもろさや儚さなどを詩情をもって表す『砂の器』と並び、魅力的な表題である。

 手がかりを見つけては新たな壁が立ちはだかり、テンポよく一気に読ませる。青白い炎のようにおどろおどろしく燃える犯人の情念や、「悪い奴ほどよく眠る」ようなやるせない最後のため、読後感に重さは残るが、その重たさも含めて、本書が社会派ミステリーの嚆矢と呼ばれる由縁だろう。
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