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2017年07月28日15:37

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かつての食文化

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江戸時代といえば、たとえば池波正太郎の時代小説を読んでもわかるように今日の日本における食文化が完成された頃であった。
戦後になり西欧型に食スタイルが変わったとはいえ、今日でも食べられている物が多いことに気づかされる。
たとえば冒頭に取り上げられている甘酒の項。かつては冬の季語として使われた甘酒が、いつの頃からか夏の季語になった。
原因は何か。東京農業大学の名誉教授である著者は、里帰りする学生たちに故郷の古い寺の墓碑を調べてもらった。
すると江戸時代には七月、八月、九月と夏の暑い時期に亡くなっている人が多いということだ。
これは暑さをしのげなかったためで、その背景からこの頃に栄養満点な甘酒を飲む習慣がつくようになったのではないか。
鰻が一般庶民の口になかなか入らなかったこの時代、甘酒は「総合ビタミンドリンク剤」として夏に普及したのではと推理する。
他に抜群においしい納豆の呉汁の作り方、各種の塩辛がどのような過程で作られていったかなども紹介している。
読んでいるだけでお腹が鳴り、今夜は刺し身で一杯などと考えてしまう。
無論、現代では廃れてしまった食べ物もある。今や危機的状況にあるのは鯨食であろう。
本書では三項目にもわたって鯨について言及しており、これがいかに日本や日本人にとって密接な食べ物であったかということに触れている。
捨てるところがまったくないという点では現代のエコロジーの概念を先取りしているし、近年においてはアルツハイマー病の予防と治療に効果があると実証されているという。
鯨肉が安価に手に入らなくなってから久しいが、好事家だけの御馳走にしておくのはもったいないことだ。
別なところでは牛蒡や蒟蒻に代替えされているが、当時の人たちが食物繊維を摂るために和紙で作った紙餅なるものも食べていたというのも実に興味深い。
廃れたにしろ受け継がれたにせよ、江戸時代の食文化は今なお我々の胃袋を刺激して止まないといえる。食生活を見直す意味でも読んでおきたい一冊。


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