熊川振付の特徴は、原典を尊重しつつも、
さらなる演劇性を追求しているところで、
復元に拘泥しない柔軟な演出が好ましい。
「白鳥」も、プティパ・イワノフ版をベースに、
ブルメイステル版のようにプロローグを加えたり、
初期のゴールスキー版のようにオデットとオディールを
別役にしたかと思えば、オディールを最終幕にも登場させて
観客を驚かせた。2005年改訂から採用された
このオディールの活用は好評だったらしく、
昨夜見た2007年版にも踏襲されている。
また主宰者が主宰者だけに、
ヌレエフ版のテイストも多分に感じられる。
しかし「白鳥」の初演は2003年、最近の作品と比べると、
いろいろ考えすぎてまだ整理しきれていないように思える。
それを一番強く感じるのが3幕(ここは4幕構成)で、
国別の踊りのうちマズルカとチャルダッシュを割愛し、
短くなった分、花嫁候補6人を3人ずつに分けて
冒頭部分を繰り返したり、ロットバルトのバリを加えているが、
洗練というよりは原典の調和を崩してしまっている。
ダンサーたちの技量は、目を見張るような進歩ではないが、
某お教室寄せ集め集団のように停滞はしておらず、
実力相応の役が割り振られているのも好ましい。
1幕トロワのブーベルさん、
ベンノ役の橋本さんが目を引いた。
顔の識別ができなかったが、
4羽(神戸、小林、副、中谷)の中にも良い動きの人がいた。
あと、やはり長田さんは踊りが大きくて優雅だ。
ボリショイで学んだだけのことはある。
ジークフリート王子は輪島さんの代役登板の芳賀さん。
長い脚と高いジャンプが印象的なダンサーだが、
恵まれたスタイルをまだ十分に生かしきれていないのが惜しい。
演技がおろそかとまでは言わないが物足りない。
意外と言ったら失礼だが、昨夜はサポートが上手かった。
都さんに「押しちゃダメ!」と釘を刺されたのだろうか。(^O^)
その調子で頑張れ〜。
王子に関連してひとつ気になったこと。
彼の解釈ではなく、上からの指示なのだろうが、
1幕で、踊り終わった友人たちを労い、
王子自らワインを注ぐシーンがある。
気さくな王子を演出しているのだろうが、
当時の階級制度を考えると、従者に直接指示する、
くらいの方が自然なのではなかろうか。
生粋のKバ・ファンには申し訳ないが、
昨日の観覧目的は、吉田都さんだった。
もう2度と目にすることのないと思われた、
都さんの生オデット。
いや、もう、感動ものでした。(*^^*)
主役2人のパートナーシップという点では、
シェスタコワ/ルジマトフ、ロパートキナ/コルスンツェフ
ペアの方が完成度は上だったが、
タコさん、ロパさんとはまた別のオデットを魅せてくれた。
オデットと言うと、高貴な白鳥の女王、
愁いを内に秘めつつ辛い境遇に耐えるキャラクター、
というのが一般的なイメージだと思うが、
昨夜観たオデットは、女王というよりも、
感情豊かな等身大の姫さま。
驚きに大きく瞳を見開いたかと思えば、
後ろから王子に抱きかかえられる場面では、
安堵と喜びに陶然の表情を浮かべ、
2幕最後、人間から白鳥に引き戻されるシーンでは、
渾身の想いを込めて悲しみを表現していた。
それだけに、ラストはハッピー・エンドで終わってほしかったが、
ここのエンディングは、主役2人が入水自殺してしまい、
あの世で幸せに暮らすというもの。
人間の姿に戻った都さんの、幸せそうな愛らしい笑顔を見た時、
ロイヤルの首脳陣は、彼女の退団をさぞ残念に思ったことだろう、
などと余計なことを考えてしまった。
パンフレットを眺めていたら、
奇しくも鈴木晶さんが、4幕に登場する
黒鳥たち(ここは灰色)について触れていた。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=331943272&owner_id=3210641
それによると、黒鳥たちは蘇演版にすでに登場しており、
しかもプティパは当初、
ひな鳥たちをピンクにするつもりだったらしい。(^^;)
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