mixiユーザー(id:3210641)

2007年01月30日07:46

4123 view

【バレエ】白鳥の湖:黒い鳥の正体

師匠に連れられて初めて「白鳥」を見た時,
最終幕の群舞に突如出現した黒いチュチュの集団を,
「何者?」と思い眺めていた。
オディールの分身? ロットバルトのスパイ?

同じ疑問を抱く人は結構いるようで,
先日もバレエ関連のコミュで同様の質問をみかけ,
そのことを思い出した。

結論を先に述べると,
黒い鳥たちの正体は「白鳥の雛」。
灰色ではなく黒なのは,
白いチュチュとの対比を明確にするためだろう。

根拠は,まず1877年の初演台本に,
オデットの帰りを待つ白鳥たちが,
若い白鳥たちとともに踊って不安を紛らわせる,
という記述がある。
またチャイコフスキーも,
白鳥の娘たちが子どもたちに踊りを教えている,
と総譜にメモを残しているという。

いわゆる「小さい白鳥」は,
前半の4羽(メッセレル版は6羽)の白鳥たちのことだから,
「若い白鳥」「子どもたち」は,
「=黒い鳥」と解釈してもよいだろう。

ただし,ライジンガー版やプティパ/イワノフ版の初演時から,
黒い鳥たちが登場していたかどうかはわからない。
設定上の話,あるいは白い衣装だった可能性もある。

というのも,手持ちの資料を当たった限りでは,
黒い鳥たちの登場しない版の方が多く,
1980年にボヤルチコフ版が採用したと特記する資料もある。

ちなみに登場しない版は次のとおり。
 ボリショイのメッセレル/トゥルビエワ版
 ウィーンのヌレエフ版
 ボリショイのグリゴロ1983年版
 パリオペのブルメイステル版
 スウェーデンのライト版
 ロンドン・フェスティバルのマカロワ/アシュトン版
 ベルリンのバール版
 ノヴォロシースクのヴィハレフ版
 東バのゴールスキー/スミルノフ版
 ABTのマッケンジー版
 スカラ座のブルメイステル版
 (牧バのウェストモーランド版はどちらだったろう?)

一方,登場が確認できたのは,
 マリインスキー,新国,タッチキンのセルゲイエフ版
 新国の牧版
 ペルミおよびマールイのボヤルチコフ版
 ボリショイのグリゴロ1989年版
 キエフのコフトゥン版
 Kバの熊川版
 (バランシン版は特殊なので対象外)

脇役だから仕方ないのだが,
これらのうち黒い鳥たちについて触れているのは,
マリインスキーのあらすじとマールイ芸監の解説のみで,
新国のパンフに手がかりらしきものがあるだけだった。

新国の新旧パンフには,
版の違いに関する興味深い記事が載っており,
使用曲の対照表の中,
チャイコフスキー原曲および蘇演版の最終幕に,
「小さな白鳥たちの踊り」という曲がある。

ボヤルチコフ版は,
プティパ/イワノフ版の復元を試みた,
1958年のロプホフ/ボヤルスキー版を元に,
芸監ボヤルチコフさんが手を入れたもののようで,
彼自身による解説には,
「舞台は悲しみで包まれ,オデットの喪に服するかのように
(? どういう意味???)黒い鳥たちの姿が現われる」
という,意味不明な一文がある。(翻訳,大丈夫か〜?)

ところが,
昨年来日したマリインスキーのパンフのあらすじには,
「悪魔が差し向けた黒鳥たちが2人を引き離そうとする」
とある。おや〜??? 面白くなってきたぞ。(^^)

百聞は一見にしかず,手元にタッチキンおよび
マリインスキーのセルゲイエフ1991年/2006年版,
ペルミのボヤルチコフ版,ボリショイのグリゴロ1989年版,
Kバの熊川2003年版があるので,
くだんのシーンを見てみることにした。

マリインスキー1991年版の黒い鳥たちは,
最初は白鳥たちと一緒に踊っており,
ロットバルトがやってくると追い散らされるかのように退散。
その後出たり入ったりを繰り返し,
最後ロットバルトが倒されると姿を消してしまうが,
「2人を引き離そう」としているようには見えない。
2006年版も黒い鳥たちの演出に大きな変化はなく,
タッチキンも群舞の頭数が少ない点を除けば基本は同じ。
ううむ,パンフと話が違うぞ。

ペルミのボヤルチコフ版は,セルゲイエフ版とよく似ている。
両者ともプティパ/イワノフ版を念頭に置いているし,
ボヤルチコフさんがセルゲイエフ版も参考にしたとしても
不思議ではない。

熊川2003年版には,黒ではなく灰色の鳥たちが登場する。
ここのラストは,主役2人の入水自殺により,
弱ったロットバルトを群舞たちが止めを刺す,というもので,
このとき灰色鳥たちは加担していないが,
その前のオデットを取り巻く様子は,彼女を慕う雛鳥に見える。

2005年版ではオディールが最終幕にも登場し,
その斬新な演出に驚かされたが,
灰色鳥たちがどうしていたのか,残念ながら覚えていない。
来月の2007年版でどのうよな演出を見せてくれるか。
封印されていた吉田都さんの踊りともども,とても楽しみだ。(^^)

一方ボリショイのグリゴロ1989年版は,
ロットバルトとともに現れる登場のタイミングや,
オデットとジークフリートの間を
遮るようなフォーメーションからすると,
ここの黒い鳥たちがいちばん悪魔の手下のように見える。

このほか黒い鳥ではないが,
ロットバルトの手下複数が最終幕にも登場する版として,
昨年来日したサンクトペテルブルク・アカデミーの
ペトゥホフ版がある。
ダンサーの力量は大したことなかったが,
演出やフォーメーションは他の版と違うところが多く,
それなりに楽しめた。

仮に黒い鳥たちがロットバルトの手先だとしても,
上手く振り付けてくれれば,それはそれで面白いと思う。
しかし,マリインスキーのパンフあらすじは,
よく知らない人が創作したものではないだろうか。
0 15

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2007年01月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031