『ひき逃げ』

『ひき逃げ』(66) 監督:成瀬巳喜男
プロットを見て面白そうなので買った。当たりだ。
貧しい未亡人・国子(高峰秀子)は五歳の息子をひき逃げされる。犯人は不倫中の重役夫人(司葉子)だった。皮肉なことに夫の会社は自動車会社だ。重役は定年間近の社員を身代わりに自首させる。裁判は運転手の罰金三万円(安っ)で決着がついたが、近所の目撃者が「運転していたのは女だ」と証言する。
国子は真相を探るため、重役宅に家政婦として潜入する。重役夫人には同い年の息子がいた・・・。

交通戦争という言葉が存在した時代だ。絶讚する人の多い高度成長期だが、社会の矛盾が軋み声を上げていた時代でもある。交通違反の罰は今よりずっと軽かった。
子を殺された母の執念が鮮烈に描かれる。真相を知った国子はどうするのか。夫人には別の方面からも破滅の足音が迫る。二人の大女優の鬼気迫る演技合戦が見ものである。ハッピーエンドに成りようがない話だが、予想を上回る悲劇が待っていた。見終わったあと、しばし茫然自失した。
監督も女優もビッグネームなのに、なぜ本作が有名でないのか不思議だ。こういう極限人間ドラマは日本では嫌われてたのかな。今こそ再評価したい。★★★★★