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2024年03月31日05:06

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16年前の短歌人東京歌会

パソコンの(と言うか、正確に言えばUSBメモリーの)奥底の方に溜まっているウゾームゾーの“断捨離”をしようかと思って、日付の古い順にチェックを始めた。が、おお、こんなことを書いていたんだっけ…などと懐かしくなること多く、まあ、このまま保存しておこうという気分になった。USBメモリーというのはたいしたもので、こんなに多くのものを記録していながら、まだ全容量の5%も使っていない。もっとも僕はワードなどにしないでテキスト(マイクロソフト用語で言うと「メモ帳」)で保存しているものが多いので、その分、容量が少なくて済んでいるのかも知れない。

その、おおこんなことを…の一端として、2008年12月21日の短歌人東京歌会の報告稿を以下ご紹介します。当時僕は「新人会」(についてはひとつ前の『紙ひかうき』の紹介記事の最初の方をごらんください)の広報担当をやっていて、東京歌会に参加できないメンバーの方々へ、その都度メールで報告をお送りしていたのだった。その内、以下の稿が最古のものである。なお、歌会に出された作品は未発表の扱いで、ネット上などで公開するのは控えましょうというルールがあるのだが、なんせ16年前のことでございますのでそこのところはひらに……m(_ _)m

[以下引用]

12月の東京歌会は、終了後忘年会があるためもあってか、いつもより参加者が多いのが通例のようです。今年は詠草73首(うち欠席2名)、その批評を、依田さんと小池さんの腕力!の司会で、ほぼ時間内に終了しました。

12月だけは題詠で、今回は「駅」でした。題詠ということをどう考えればよいのかということも話題になりましたが、とりあえず東京歌会の場合は、「駅」という文字が入っていれば、内容上「駅」がメインではなくてもよい(たとえば「駅伝」の歌でもよい)、「駅」という文字が入っていなくても、駅を歌った歌だということがわかれば(たとえば「改札口」の歌、など)、それでもよい、という話になりました。

1.終着駅にかつて浪漫ありにしを世界は忘れ我も忘れき  藤原龍一郎

2.東武浅草駅のホームと電車ほど離れているのが男と女  谷村はるか

3.思い出は音威子府(おといねっぷ)の駅にある 吹雪き尽くして人を待ちし日  中井守惠

4.雪国の「駅長さあん」と呼ぶ声を読むとき脳のやみにふるゆき  渡口 航

5.東京駅八重洲中央新幹線出口ときどき印度の匂ひす  長谷川知哲

6.浜松駅にさしかかるころ没日(いりひ)泛かび「レフト・アローン」のピアノ音(ね)しづむ  花鳥 佰

7.駅員ははつかためらひたる後にピンクのコートをぐんと押したり  春野りりん

8.駅留のチッキといふものむかしあり柳行李にひもかけてある  小池 光

9.千代駅すぎてほうと咲きゐる合歓を見き無人駅つづく谷あひの旅に  永井秀幸

10.螢田の駅にあらねど虹は立ち空渡りゆく〈のぞみ〉の車窓  斎藤 寛

11.この先に駅はあるのか真つ黒な鉄道林をひらく星空  本多鈴雨

12.駅の名を「そうごさんどう」と読み得たる六歳の夏の千葉のあかるさ  平野久美子

13.告白すれば三年テスト監督時題詠歌「駅」おもふことなし  村田耕司

14.空中の駅をつつつと飛び継ぎて新線はアキバ深部に刺さる  依田仁美

15.條件が黒髪ならば韓国人手配すとふこゑ 池袋駅  蒔田さくら子

(以上、詠草掲載順に抜粋)

1首目。この歌の批評は、私が会費を払う列に並んでいた時に、見切り発車(!)で始まってしまい、うっすらとしか聞いていないのですが、あまりに抽象的な言い方ではないか、いや、そこが良い、というような話が出ていました。

2首目。カンボジア滞在が長かった山寺さんは、浅草駅はJRではなく東武だった、と初めて知ったそうです。^ ^; この駅を知らなくてもよくわかっておもしろい一首。ホームと電車が離れているのは、ホームがカーブしているからだが、逆に異常接近している箇所もある。男と女、そういうものだねえ、という深い鑑賞も出されました。

3首目。「吹雪き尽くして」がよくわからない、との意見多し。私は「吹雪が尽きるまで」の意かと思いましたが、後で中井さんにうかがったら、「私自身が吹雪き尽くすまで、と言いたかったのですが、ちょっと無理でしたね」とのことでした。なお、中井さん、「新人会」に入ってくださいました!

4首目。雪国は「読む」とあるのだから、川端の『雪国』とわかる、という前提で批評がなされ、私はその段階でくじけました・・・ 上の句は良いが下の句、特に「脳」は違和感あり、という声あり。なお、渡口さん、事情が変わって^ ^ 新年歌会参加!だそうです。

5首目。上の句の漢字の羅列には賛否両論ありました。「印度の匂ひす」と世界に向かって断じているところがとても良い、という評もありました。

6首目。「没日」「泛かび」「しづむ」のアップダウンが忙しすぎる、という評あり。浜松だから、ピアノはよく合っている、という意見もありました。

7首目。よく見かけるシーンだが、なかなかこんなふうには詠めない。駅員の一瞬の微妙な心理がよく描けている、と好評でした。

8首目。「チッキ」を知らないひとが半数ぐらいいました。いわんや柳行李・・・ 小池さん、「この歌はそういうものがあったと言っているだけで価値がある」と言われていましたが、ご自身の作でした。^ ^

9首目。「千代(せんだい)」は長野県の飯田線の駅、と小玉春歌さんが携帯電話で瞬時に検索してくれました。この歌以外にも、あまり知られていない駅名を詠み込んだ歌がいくつかあり、小玉さんが検索係でした。^^; 長野と言えば永井さんでしょう、と司会の小池さんは永井さんに説明を求め、この時点でほぼ作者は明らかでございました。なお、この一首、『短歌研究』2009年1月号の「現代百人一首〜駅を歌う」86頁に、永井さんの自注とともに掲載されています。

10首目。小中英之さんの《螢田てふ駅に降りたち一分の間(かん)にみたざる虹とあひたり》をふまえた上の句はよろしいが、下の句の「空渡りゆく」がわかりにくい、「のぞみ」という列車名を出したことでかえって印象が散漫になってしまった、と言われました。作者の危惧していた通りでありました。^^;

11首目。「鉄道林」ももはやなつかしい言葉、「真つ黒」に実感があり、さらに「星空」と畳みかけるように歌っているのが良い、と好評でした。

12首目。「そうごさんどう」は「宗吾参道」、成田に近い京成線の小駅。ひらがながきにされると、たちまち小玉さんの検索能力はダウン。^ ^ 孫の歌か作者自身の思い出か、読みがわかれました。私は後者と思いました。「千葉」と大きく出たところが良いという人、そこがわからなかった人、この点もわかれました。

13首目。小池さんが鋭く読み解き(なんたってこの間まで彼も教師でしたから)、「この歌はねえ、テスト監督の時は教師たるもの監督に専念しなければ服務規律違反なんだよ、だから題詠歌なんて思ってもみませんでしたよと言ってるんだよ。だけどそれを告白すればって言うんだから、当然ウラを読まなくちゃいけないんだよ。私はテスト監督中に題詠歌のことばっかり思っていて、この一首を得ましたっていう歌だよ」とのこと、村田さん、後で「さすがは小池さん!」と言われていました。^ ^

14首目。この歌は、最近できた「つくばエクスプレス」を知らないとよくわからない一首。「アキバ」は以前からある種の記号でしたが、そこへあの事件の記憶が重なりました。高架線から終着秋葉原で地下に入る新線を、うまく歌い込んでいる一首、さすが依田さん!

15首目。これは売春斡旋の光景。「條件が黒髪」っていうのが凄い、と小池さんが大いに感心していました。作者が蒔田さんとわかってビックリ! 蒔田さんって、年齢相応に枯れるとかいうことが全くないお方ですね。若い! 忘年会にても、「私は年齢的に言って世間一般で言えば『おばあさん』なの。でもね、歌をやっている限りは『おばあさん』ではないの。皆さんも誰もわたしのこと『おばあさん』とか言わないでしょう? これはねえ、歌のおかげなんです。ほんとうに歌っていいものですよ」と言われていました。

[引用終り]


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