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2021年08月16日23:06

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本棚407『図書館の神様』瀬尾まいこ(マガジンハウス)

 「文芸部は暇つぶしでもないし、垣内君はくすぶってもいません。文芸部は毎日とても活発な活動をしています。一日だって同じことをしている日はありません。毎日毎日新鮮な真新しいものを生み出しています。ただ単に勝つことだけを目標に、毎日同じような練習を繰り返しているような体育会系のクラブこそ、存続を考えたらいかがでしょう」

 どの教室からも海の見える高校に、一年限りの講師としてやって来た清(きよ)。勝つためだけのバレーボールに打ち込んできた清は、思いもよらず文芸部の顧問になる。清は国語の教師であるのに文学に興味はなく、はじめは部員がたった一人の文芸部に退屈していたが、大人びている一方で、文学への熱い想いを持つ垣内君と本の感想を語り合ったりする中で、次第に変容していく。一年が経とうとする中、来年度の文芸部の廃止を話す職員会議で、清は冒頭の言葉を述べる。

 卒業を間近に控えた文芸部最後の日。図書室を出て、二人で校庭を思いっきり駆け回り、冷たいサイダーを飲む場面は、文芸部を卒業するための「儀式」のようで心に残った。

 高校生の頃、キャプテンだった自分の言葉でバレーボール部の同期を亡くしたことの心の傷や、先の見えない不倫の愛に寄りかかってしまう弱い気持ち。こうしたことを乗り越え、前に進んでいく力を、清は文芸部で過ごした一年で手に入れる。
 自分の中の絶対の正義や信念に固執せず、自分以外の世界に触れ、自分の世界を広げてくれるもの。それは文学にとどまらない。清にとってそれは教師になることだった。
 
 実際に教師をしている著者だからこそ、病気明けで出勤したときの生徒たちのさりげない優しさや、授業の中で生徒達と心が通い合う瞬間などが丁寧に描き出されている。ひとりひとりは違う人間だけど、お互いに尊重し合あうことの大切さ。自身の狭い価値観にとらわれず、自由に伸びやかに生きること。それは本を通じて古今東西の多くの人びとの想いを知ることでも、教師になって生徒たちと人生の同じ時を共に過ごすことでも、可能になるのだろう。
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