こんなにも多くの種類の花々が万葉集に詠まれていることに驚いた。古人は花に自分の想いを仮託する。恋する人を花の美しさになぞらえて歌う時もあれば、花の短く儚い命を詠んだものもある。
「月草の仮なる命にある人を いかに知りてか後も逢はむと言ふ」(お互いにいつ死ぬかわからない人間の身であるのに、あの人はそれをどう考えて、後にでもゆっくり逢おうなどとおっしゃるのでしょうか)
花々の名の語源を丁寧に教えてくれるのも本書の魅力。例えばヤマブキは、弓なりになった花が風に揺れている様を山が振れる、「山振」と表したのが語源であるという。
直接的に自分の想いを伝えるのではなく、植物にたとえ、想いを託すことで、想いはより深まり、静かな余情がもたらされる。直情と繊細をあわせ持った万葉の歌の素晴らしさを再認識することができた。
「笹の葉にはだれ降り覆ひ消なばかも 忘れむと言へばまして思ほゆ」 (笹の葉に雪がはらはらと降りかかり、覆いかぶさり、やがて雪が消え去るように、私も消え去って死にでもしたならば、あなたのことを忘れることができるでしょうか、と妻が言うので、いっそういとしく思われる)
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