mixiユーザー(id:2716109)

2019年12月03日23:17

35 view

本棚225『一日一文 英知のことば』木田元編(岩波文庫)

 一日一頁、古今東西の人物の言葉が紹介されている。年明けから毎日少しずつ読み進め、一年を前にしてようやく読み終えた。慌ただしい日々を送る人たちに、「せめて一日に数行でもいい、心を洗われるような文章なり詩歌なりにふれて、豊かな気持で生きてもらいたい」という著者の思いから選ばれた名文たち。上品にすました文章よりも、各人の心の奥底からしぼり出されたような、熱く骨太の文章が多い気がする。分野は多彩で、哲学者の著者の選択だから、思想家が多いのかなと思っていたが、小説家、詩人、画家、歴史家、科学者、政治家など広範にわたる。

 知里幸恵の『アイヌ神謡集』の伸びやかで清澄な序文のように、まさに代表的な一文というものもあれば、人物の意外な側面を垣間見れる一文もあり、新鮮な気持ちになる。例えば、プラトンの『ソクラテスの弁明』の文章は、教訓的な哲学書ではなく、胸をえぐる劇的な小説のような切迫感が感じられる。

「しかしもう去るべき時が来たー私は死ぬために、諸君は生きながらえるために。もっとも我ら両者のうちのいずれがいっそう良き運命に出逢うか、それは神より外に誰も知る者がない。」

 こうした選集では、自分の好きな言葉が入っていると、旧友に出会ったような嬉しさを覚える。ジャック·プレヴェールの「夜のパリ」は短い詩だが、大学一年生の時の授業で知って以来、その浪漫溢れる余韻とともに光彩を放っている。

「三本のマッチ 一本ずつ擦る 夜のなかで はじめのはきみの顔を隈なく見るため つぎはきみの目をみるため 最後のはきみのくちびるを見るため 残りのくらやみは今のすべてを想い出すため きみを抱きしめながら。」
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年12月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031