漢字と片仮名の混じった言葉が、体の内から絞り出される慟哭のような、悲憤のような、哀願のような響きを持つ「原爆小景」の詩が最もよく知られている。
しかし、この全詩集を読むと、詩人のより広やかな世界に触れることができる。たおやかで幻想的な詩は、被爆を描いた詩の激しさと明瞭な対比をなす。とりわけ、被爆の前年に病死した妻への挽歌のような詩群は、静謐な哀しみを湛えている。
詩人にとって、詩を書くことは自身と世界とを繋ぎ留める糸のようなものだったのではないか、と思えてくる。
美しく輝きに満ちた「永遠のみどり」の詩が初めて世に出たのは、詩人の鉄道での轢死を報ずる死亡記事だったという。詩人の心に何が去来したのか、知る由もない。
「ヒロシマのデルタに 若葉うづまけ 死と焔の記憶に よき祈よ こもれ とはのみどりを とはのみどりを ヒロシマのデルタに 青葉したたれ」
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