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2017年08月30日04:52

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実話を映画化するときの最大のポイントは、何を描くか。その本質に迫ったテレビ映画。バリー・レヴィンソン監督「嘘の天才 〜史上最大の金融詐欺〜」(2017)。

テレビ映画ですが、ロバート・デ・ニーロが主役で、奥さん役をミシェル・ファイファーが演じるなど、なかなかの顔ぶれです。ひと昔前だったら、かなりの宣伝費をかけて劇場公開していたと思うほどの力作。残念な時代になりました。

物語は2008年に逮捕された、ウォール街の投資顧問バーニー・マードフ(ロバート・デ・ニーロ)を描いたもの。アメリカ証券取引委員会の大物でもあった男が、投資顧問として数百億ドルを詐取していたという、信じられない物語でした。僕が面白いと思ったのは、その事件の手口などには一切触れず、バーニー・マードフが何をしようとしていたのか、そしてその筋書きどおりにはいかなかった現実を、彼や家族がどう受け入れたかというドラマにしていたことです。

マードフは証券会社を立ち上げて成功し、一時はアメリカ証券取引委員会の委員長になりそうな勢いだった人だそうです。そんな人間が、個人で投資顧問を行っていると称して、実はねずみ講を行っていたらしい。いや、そういう事件です。なんかそんな事件があったかなぁ、というのが僕の感想。数百億ドルという数字は僕にとって天文学的数字であり、“たくさん”だとは感じても、具体的にピンときません。

冒頭、いよいよ破綻すると覚悟したバーニーが、息子たちや弟など会社の役員を集めて“社員にボーナスを払いたい”と切り出すところが僕にはツボでした。いわく“今年はもうかったから、社員の幸せのためにボーナスを払いたい”。しかし息子たちや弟ら他の役員は反対します。いわく“今は利益を留保しておくべきだ”と。

そこでバーニーは、今まで行ってきたねずみ講システムが破綻することを白状するわけですが、それまで誰もバーニーのやってきたことに気づかなかったのかなど、事件の真相に対するアプローチは皆無です。僕はその構成が興味深かった。

この映画の“原作”は、ダイアナ・ヘンリケスという人のノンフィクションで、彼女は弁護士と妻(ミシェル・ファイファー)に次いで、最も多くバーニーと接触した人物だと紹介されます。そして驚いたのは、取材者本人役として映画に出ていることでした(写真2)。

ロバート・デ・ニーロは製作にもかかわっているので、このバーニー・マードフという人物をドラマの中で再現したかったのでしょう。“私は常に、社員たちの幸せを考えてきた”と言う、バーニーの“本質”を体現しているように思いました。←もっとも、被害者から見たらとんでもない悪人ですけどね。

面白かったのは、事件が明るみに出るとマスコミが“ホロコーストを生き延びてきた人物の全財産を奪った”という言い方をすること。常に、最も読者の心をつかむ被害者を中心に据えて、犯罪者を非難するわけです。僕から見たら、“あぶく銭を稼いだ連中から巻き上げた金を、身内にばらまいた”という事件にしか見えない。

そしてバーニーが起訴事実をすべて認めたため、またそれ以外の人物を起訴するに足る事実が明らかにならなかった(FBIなど当局が断念した)ことから、具体的な審議はなく結審します。これが事件の核心なんですが、それを行うとアメリカ財界の裏面があらわになるからでしょう、すべて闇に葬られます。そのあたりの描き方が面白かった。

ということで終盤は、思いどおりに行かなかった結末を、獄中で受け入れるしかないバーニーの姿と、バーニーのせいで破綻した家族たちの姿が積み上げられます。バーニーのおかけで裕福に暮らしていた部分は感謝されず、その生活をなくして庶民の生活を“強いられてしまう”ことだけが大問題だという家族の反応がすごい。

さらにバーニーが新聞記事に対して、“私と殺人鬼のテッド・バンディを同列に論じるのはけしからん”と発言する場面があります。それはある意味“正しい”と僕は思う。資本主義という“誤った思想”を実践して金を稼いだ連中から金を巻き上げてもいいじゃないか、という意味で。そう、僕は他人のコンピューターを覗いてファイルを交換してしまうソフトを作り上げた人間を“革命家”だと認識していますから、そういう観点から見れば、バーニーにも一理あるのです。

と言うことで、“盗人にも三分の理”という“真理”を、興味深い映画に作り上げてくれたバリー・レヴィンソン(写真3、左端)に感謝したいと思います。最近ろくな映画がないと思っていた監督さんだけに、痛烈な印象でした。←ちょっと前に「ロック・ザ・カスバ!」という作品を見たのですが、日記検索で出てこない。書いたはずだけどなぁ。見直して再度書くか。
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