mixiユーザー(id:2615005)

2014年07月16日20:58

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『天涯の砦』

もう一冊小川一水の本をレビューします。
・天涯の砦
軌道上に浮かぶ巨大ステーション「望天」は、回転軸の事故で爆発してしまう。幸いにも破損を免れた第四扇区とドッキング中の宇宙船「わかたけ」には十名の生存者がいた。絶望的な状況の中、決死のサバイバルが始まる。冒頭に漂流部分の見取り図が載っていて、わかりやすい。

船外作業員の二ノ瀬とカウンセラーの長柄がいわゆるヒーローとヒロインなのだろうが、はっきり言って頼りない。第四扇区はピザの一切れのような形をしており、単独での推進力はない。扇の弧の部分にドッキングしている「わかたけ」のエンジンが頼みの綱だ。ブリッジと機関部に一人づつ孤立した生存者がいるが、機関部にいる男は何やら一癖ありげで、信用できない。それ以外で比較的ましなのが愛犬家の医者だ。あとは8歳と6歳の兄妹、金持ちのバカ娘キトゥンとその腰巾着そしてキトゥンに欲情しながらも憎悪を燃やす少年・大島功という涙が出そうなメンバーである。サバイバル能力のありそうな奴がほとんどいないというのが凄い。
いや、孤島やジャングルで有効な特技があっても、役に立たない。何しろ一歩外は真空の宇宙空間なのだ。これほど苛酷なディザスター物は初めて読んだ。酸鼻なシーンが続出する。人が宇宙で暮らすのはかくも困難なのかと溜め息が出る。

メンバーたちの言動は生臭いまでに迫真力がある。それはそうだ。出自と立場の違う者がそう簡単に一丸となれるわけがない。強烈な印象を残すのはキトゥンと功の確執だ。自己中バブル女とひがみ根性満載の貧乏小僧では、どちらが人として許せないだろう。どっちもどっちか。二人とも金属バットでぶん殴りたい。ここまで好感を持てない人物を描くのは、相当な力量がないとできない。

極限の人間ドラマとハードな宇宙SFの見事な合体である。中盤で感じる違和感は、結末で鮮やかに伏線として回収される。SFファンとパニック映画好きは必読の力作である。★★★★★

これで小川一水の本は七冊目だ。ひとつも外れ無し。おそるべきヒット率だ。次は三部作「復活の地」を読もう。全十巻という触れ込みの「天冥の標」はどうしようかなー。
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