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2026年08月03日05:34

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映画「ハケンアニメ!」

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劇場公開どころか、存在していることすら知らなかった映画『ハケンアニメ!』(2022年)。探してみると、Amazonプライムにあることがわかり、さっそく視聴してみた。普段、この手の映画にはあまり興味がない私が本作を視聴したのは、黒澤明『夢』の第4話「トンネル」について意見交換している時、マイミクのalcoa01さんから「吉岡里穂の最高傑作だと思います」との情報を伺ったからだ。ドラマ、映画では脇役か準主役級で、なかなか主役を演じることがないものの、吉岡里穂はとても気になる女優のひとりである。彼女が『ハケンアニメ!』でどんな演技を見せているのか、純粋に「そこ」に惹かれた。

 とても面白かった。吉岡里穂は頑張っているが、ある意味、予想の範囲内の演技に収まっていた。彼女の演じる「新人監督 斎藤瞳」が地味で生真面目で、少しつかみどころのないキャラということもあり、抑えた演技になっていることは理解しても、吉岡里穂が共演者達の間に埋もれてしまった感はぬぐえないと思う。これは彼女のせいではなく、脇を固めた柄本佑、尾野真千子の二人が巧すぎ、彼らの演じたキャラの方がより魅力的だったからに過ぎない。物語としてはいささか盛り込み過ぎて、少々渋滞しているように私には感じられた。そのため、いくつか目頭を熱くするシーンがあっても泣けるまで至らなかったのは、もったいないと思った。


【物語】 国大卒で県庁に勤める斎藤瞳(吉岡里穂)は「誰かの力になるようなアニメ作品を作りたい」との思いで大手制作会社トウケイ動画に転職する。不幸な子ども時代を過ごしたせいで現実の厳しさを知った彼女は「世の中にはヒーローもいなければ魔法も存在しない」という冷めた人生哲学を持っていた。漫画にもアニメにも興味がなかったが、ある日、偶然、目にしたTVアニメ『光のヨスガ』主人公の生き方に衝撃を受け、感動の涙を流す。それは天才と呼ばれた王子千晴(中村倫也)の監督作品だった。王子千晴の描く物語に励まされ、人生が一変した彼女は「自分もいつか子ども達の心の支えになるようなアニメを作りたい、王子千晴を超える傑作を作りたい」という一心で、トウケイ動画に転職したのだった。そして、7年後、チーププロデューサーの行城理(柄本佑)に抜擢され、初監督作品『サウンドバック 奏の石』(略称:サバック)の制作に挑む。

 瞳が任されたのは4月期毎週土曜17時スタートの枠という「夕方アニメ = 子ども向けアニメ番組のゴールデンタイム」だった。各局はそこに有力な作品を投入し、高い視聴率を背景にした映像ソフト(円盤)とグッズ販売など莫大な二次利用商品売上げを獲得することを目指している。そして、そこで最も成功した作品を業界では「ハケン(覇権)アニメ」と呼ぶ。新人監督の彼女が託されたのは「覇権を獲る!」ことだった。

 しかし、『サウンドバック 奏の石』には最初から強力なライバルが存在していた。前作『光のヨスガ』以降、沈黙を守っていた天才監督・王子千晴が8年ぶりに活動を再開し、同じ時間帯に『運命戦線リデルライト』(略称:リデル)放映が決まっていたのだ。世の中の認知度、期待度は瞳とは雲泥の差で、正に「月とスッポン」。しかも、王子陣営には、かつて「伝説の制作進行」と呼ばれた敏腕プロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)がついている。『サバック』と『リデル』のどちらが覇権を獲るのか、それは2大TV局の視聴率競争の代理戦争の様相を呈していた。瞳と王子は、制作発表の共同記者会見の場で早くも激しい火花を散らすことになるのだったが・・・。




 この先、ネタバレしますので、未見の方はご注意ください。













 『ハケンアニメ!』のハケンは派遣だと思っていたし、そもそも、「覇権アニメ」という言葉が存在することも知らなかった。毎週土曜日17時の夕方アニメが「子どもアニメのゴールデンタイム」だというのも、TV局が視聴率争いに汲々とすることもなんだか現代とは思えない。それでいて、アニメはセル画ではなくデジタルデータで、監督はPCやタブレットで絵コンテを描いている。いったい、本作の設定舞台はいつなのだろう。

 アニメ制作現場の裏側を紹介しているのは、とても興味深い。新人監督の瞳と、天才と呼ばれながらも人知れず苦悩と努力を続ける王子千晴という二人の描き方も良かった。新人ゆえに現場の制作スタッフ・プロデューサーにふり回される瞳、天才ゆえに現場の制作スタッフどころかプロデューサーをもふり回す王子千晴の対比は見事だ。そして、彼らを理解し、彼らの作品成功のために尽力するプロデューサーの行城(柄本佑)と有科(尾野真千子)との関係も感動的に描けている。しかし、物語を構成する要素が、あまりに多過ぎる。同じモノ作りをテーマにしたアニメ映画『ルックバック』のシンプルな物語に比べると、どうしても散漫な印象になってしまうのは否めない。『ルックバック』はわずか58分の尺だが、『ハケンアニメ!』とは比較にならないほど大きな感動を実現している。「新人監督・斎藤瞳の成長と成功」「天才監督・王子千晴の苦悩と復活」、それぞれが「ひとつの物語」として成立するにも関わらず、彼らの対決のドラマまで盛り込んでいるのだから欲張り過ぎている。

 劇中アニメ『サバック』と『リデル』があたかも実在するアニメ作品のようなクオリティで登場するのは驚きだ。瞳と王子の個性の違いが絵柄や演出の差として表現できているのも凄いと思う。しかし、問題は「そこ」ではない。気になるのは『サバック』と『リデル』の、肝心の物語そのものがよくわからないということだ。瞳と王子が最終話にこだわる理由も、こだわって変更した箇所がその前とどのように改善されたのかも、私には理解できなかった。放送日、作画スタジオのファインガーデンが廃校になった小学校の教室を使い、ふたつの作品を2台のTVで大勢のスタッフ達が視聴するシーンを思い出していただきたい。それぞれの作品を放送するTVの前の人数の変化によって、視聴率の推移を表現しているのは理解するが、彼ら視聴者は作品のどこに惹かれ、何を評価しているのだろうか? これは終盤、『サバック』と『リデル』のキャラが空中で直接対決する中で視聴率や人気度の推移を表現するのと同様で意味が不明だ。それぞれの作品制作に打ち込み、苦悩する監督とプロデューサーの姿を描いてはいるが、物語そのものの展開を描いていないのだから、当然だろう。本来なら、物語と共に成長していく『サバック』と『リデル』のキャラ達と、二人の監督の成長をシンクロして描かなければならないと思う。感動の最終話で目頭を熱くしても、泣けるまでに至らないのは『サバック』『リデル』の物語に共感できるほどの情報がないからだ。原作未読なのでわからないが、アニメ制作の現場を丹念に描きながら、アニメの物語描写が致命的に不足していること、それが映画『ハケンアニメ!』の欠点だといえる。

 人事部上がりのプロデューサー・行城理をクールに演じる柄本佑は素晴らしかった。新人監督ゆえにあちこち連れ回し、余計な仕事を瞳に与えていると観客に思わせておいて、実は、面接試験で瞳の純粋な意志を知り、全て彼女の夢の実現に向けての準備であったことを終盤で明かす脚本が上手い。丁寧な言葉遣いながら、「美しい理想」を語らず、冷徹に現実を見つめ、決して妥協しない。「面白い作品がヒットしなかったり、面白くない作品なのにヒットしたりします」「良い作品を作れば視聴率がとれるとお思いですか? それは理想です。良い作品とは視聴者に届く作品です。どんな手段を使っても、一度でも作品を目にしてもらう。作品の質が問われるのはそれからです」 彼の考えは極めてシンプルで合理的だ。静かで控えめ、それでいて確信に満ちた行城の口調が耳に心地よい。「それから、誤解があったようなので言っておきますが、あなたは代打なんかじゃない。最初から4番です」 最後の最後、コージーコーナーのエクレアも巧く機能している。

 かつては「伝説の制作進行」と呼ばれていた敏腕プロデューサー・有科香屋子を熱く演じた尾野真千子も見事だった。会社、制作現場、天才監督王子千晴(中村倫也)との板ばさみになって文字通り苦闘するプロデューサーの姿がとても素敵だった。溜まりに溜まったストレスを発散するためにボクササイズでサンドバッグを殴りまくり、そこで偶然出会った瞳の言葉から「王子千晴の心中の焦燥と苦悩」に気づく。放映日目前の王子の難しい修正指示をなんとか実現しようと、深夜、秩父の作画スタジオのファインガーデン事務所を訪ね、拝み倒す終盤が良い。作品完成までの三年間私生活を投げ打ち、身を粉にしてサポートしてくれた彼女に王子がタクシーの中でプロポーズする展開には救われる思いがした。
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