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2026年03月26日19:35

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アニメ映画「ルックバック」

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普段、アニメ映画はあまり観ない。観るのは、ジブリかPixer、ディズニーアニメーションスタジオ、イルミネーション、ドリームワークスの作品で興味を惹かれたものに限られる。日本のアニメ映画の場合、よほど気が向かないと劇場まで出かけることはない。そんな私にマイミクのalcoa01さんが「2024年の外国映画も含めて、個人的1位が『ルックバック』でした。3月22日の23時から放映されます」とわざわざ放送日を事前にお知らせくださったので、観てみることにした。「上映時間58分の中編です」という情報にも背中を押された。気に入っても気に入らなくても、勝負は58分。あっという間に終わる。

 全く未知の作品だった。内容について何ひとつ情報がなかったことも良かったのだろう。軽い気持ちで視聴して、とんでもない衝撃を受けた。アニメ映画でこれほど胸を打たれたのは久しぶりだ。お知らせがなければ、おそらくずっと観ないまま終わったに違いない。1時間にも満たない短い映像作品だが、ぎゅっと濃縮され、無駄なカット、無駄なシーンが1秒もない。何もかも完璧に構成された物語世界に圧倒された。稀にみる傑作である。あまりの衝撃に、この作品がいったい何だったのか、自分の中で答えが見つかるまで日数が必要だった。


【物語】 藤野歩(河合優実)は秋田の小学校に通う四年生女子。学年新聞に四コマ漫画を連載することに全力を投入し、先生や生徒、学校内はもちろん、地域でも評判の「漫画の巧い女の子」だった。四コマ漫画を描き上げるために昼も夜も頭をひねり、ネタ帳も作って、毎週奮闘していたが、どんなに称賛されても「忙しくて5分で描いたんだ」と苦労や努力のあとを決して見せないカッコつけしいでもあった。ある時、担任の先生から「四コマ漫画の連載枠をひとつ譲ってくれないか?」と持ちかけられる。聞けば、隣のクラスの不登校児が「学校には登校できないが、四コマ漫画を描くので掲載してほしい」と希望しているという。「隣のクラスの子ですか?」「そう、京本という子なんだけどね」 藤野は正直、面白くない。「でも、漫画を描くのって結構大変ですよ。素人がいきなり描くなんて難しいと思いますけど」と不満を漏らすが、担任は「まぁ、頼むよ」と連載枠をひとつ譲ることに決めてしまう。

 翌週の学年新聞が配布され、自信満々の藤野は自分の四コマ漫画の隣に掲載された京本の作品を見て、愕然とする。タイトルは「放課後の学校」。巧い。自分の画風とはまるで違う。クラスメートも初めて連載された京本の作品を見て、「京本って、巧いな。京本の絵に比べると、藤野の絵が普通に見えちゃうよ」と正直な感想を漏らした。そんなこと言われなくとも、藤野自身が一番わかっていた。京本の作品は台詞もなければ起承転結もなく、四コマ漫画とは到底呼べるものではない。四コマに収めた、ただの風景画に過ぎない。しかし、小学四年生とは思えない圧倒的な画力と不思議な魅力がそこにはあった。「私より巧い四年生がいるなんて、許せない!」 彼女は突如出現した「京本」というライバルに激しい対抗心を燃やした。「負けたくない・・・。そうか、京本の奴、私が学校に行っている間に絵の練習をしてるんだ」 藤野は絵の描き方の参考書を買い集めると、「巧くなるには、とにかく絵を描くことだ」と寸暇を惜しんで絵の練習に打ち込んでいく。

 藤野は何もかも投げうって、絵を描いた。絵の基本から徹底的に描いて描いて、一日中、描いた。学校の友達とも遊ばず、家族の団らんにも加わらず、ただひたすらに描き続けた。冬も、春も、夏も描いて描いて、描き続け、彼女は六年生になった。ある日、クラスメートから声をかけられる。「藤野ちゃん、いつまで絵を描いているの? もう、来年は中学だよ。最近、友達と全然遊ばないし、絵ばっかり描いて、みんなからキモいと思われてるよ」 姉にも言われた。「あんた、絵ばかり描いているけど大丈夫? たまには他のこともやってみたら? 私の行っている空手教室に来てみたらどう?」 それでも藤野は描くことをやめない。しかし、ついに「その日」が来た。ある週の学年新聞に掲載された自分の四コマ漫画と京本の作品を見た時、心が折れた。どんなに努力しても京本の画力とセンスには追いつくことができないと悟ってしまったのだ。「や〜めた」藤野は学年新聞を後ろの席に回しながら、「今日、帰りにアイス食べて行かない?」と声をかけた。「え!! 藤野ちゃん、珍しいね。一緒に帰るの本当に久しぶり。みんな喜ぶよ」 藤野は絵を描くことをやめた。それからは、苦行から解放されたように友人や家族との時間を大切にするようになった。姉と一緒に空手教室に通って、汗を流す。もともとスポーツ万能だったこともあり、めきめきと頭角を現していく。彼女はもう漫画を描かない。京本と張り合わないで済む人生を選んだのだった。

 卒業式が終わって、藤野は担任の先生に呼ばれ、職員室にいた。「藤野、悪いけど、京本に卒業証書を届けてくれないか? 住所教えるからさ」藤野は抵抗した。「ええ!? どうしてですか! そんなの嫌ですよ」「頼むよ、お前が六年の途中で描くのをやめてしまった学年新聞に一緒に漫画を掲載していた仲じゃないか」 今度も先生に押し切られ、藤野は仕方なく、京本の自宅を訪ねた。チャイムを何度押しても応答がない。ドアの鍵が開いている。ドアを開けて、「すみませ〜ん、卒業証書を届けに来たんですけど」その時、奥から物音がする。「なんだ、いるじゃん。入りますよ〜」 藤野が玄関から奥へ入り、廊下を曲がると、両側にスケッチブックの山が並んでいる。廊下の先が京本の部屋に間違いない。ふと、スケッチブックの山を見ると、四コマ漫画の新しい用紙が1枚載っている。藤野はつい、悪戯心を刺激され、ペンを出すと四コマ漫画を描きだす。それは引きこもりの京本をネタにした四コマのギャグ漫画だった。京本の自宅を取り囲む群衆が「出てこないで! 出てこないで!」「出てこい! 出てこい!」と歓声を上げ、引きこもり世界大会決勝で大差をつけて、現在一位になっている京本を応援している。四コマ目、すでに死んで白骨化している京本、というブラックなオチだった。会心の出来上がりににっこり微笑んだ藤野だったが、「何してるんだろ、私」と我に返る。その瞬間、四コマ漫画の原稿を落とし、ドアの隙間から京本の部屋に滑り込んでしまった。あわてる藤野。「卒業証書、ここに置いておきます! 失礼しました!」と玄関から飛び出し、逃げると、「藤野先生!!」と赤い袢纏(はんてん)を着て、髪をふり乱した裸足の少女が追いかけて来た。それが京本(吉田美月喜)だった。

 「京本??」藤野はその少女を凝視した。京本は緊張で言葉をつまらせながら、「三年生の頃から、藤野先生の漫画見てました。わ、わたし、藤野先生のファンです。サイン、ください!! 背中の服にサインください!!」 勢いに押され、「いいけど・・・」とマジックで背中にサインを書きはじめる藤野。その間、京本は藤野の作品の感想を興奮して話し続ける。「わたし、確信しました。藤野先生は漫画の天才です! それなのに、どうして、六年生の途中から描くのをやめてしまったんですか?」京本に問われ、藤野は「って、いうか〜、漫画の賞に出す話を考えていて。ステップアップするためにやめた、って感じなんだけど〜」藤野はとっさに出まかせを言う。京本はさらにヒートアップして、「見たい、見たい、凄いです、それ! 見たい、見たいです!!」と藤野にせがむ。藤野は「・・・じゃあ、話が出来上がったら、見せてあげる」 その言葉を聞いて、京本は心から満足してにっこり笑った。京本の笑顔をじっと見つめる藤野。その時、雨が降って来た。「雨が降って来たから、帰ろっと。またね」藤野はちょっぴり冷たい口調で京本に背を向ける。京本も「またね!」と笑顔で手を振って、藤野の背中を見送る。

 雨の中、藤野は有頂天になって、スキップをはじめる。嬉しくてたまらない。水たまりを跳ね上げ、家に向かって全力で駆けだした。絶対に勝てないライバルだと思っていた京本が、自分のことを「先生」と呼んだ。自分の漫画のファンだと言ってくれた。負けたとばかり思っていた京本が・・・。藤野はびしょぬれになって帰宅すると、着替えもせず、濡れた服のまま、机に向かって絵を描きはじめた。「京本に見せる作品を描かなきゃ!」 藤野は高揚した気持ちを抑えられず、描いて描いて、描いた。タイトルは「メタルパレード」。

 藤野は中学生になった。学校から帰ると、自分の部屋に京本がいた。「お帰りなさい」「まだ、いたんだ。っていうか、そのページ終わったんだ!」「学校行ってないから、楽勝です」 藤野と京本はふたりで協力して漫画を描いていた。ペンネームは「藤野キョウ」。互いの名前からつけた。二人は漫画賞に応募するため、一年をかけて、作品を仕上げた。出版社に持ち込むと、担当の編集者から激賞された。「中学生でここまで描けるなんて、凄いよ! 最低でも佳作は間違いない!」 そして、雪の夜。漫画賞発表の号を二人はコンビニに買いに出かける。なんと、彼女たちの作品は準入選となり、賞金百万円を獲得していた。藤野のおかげで、引きこもりだった京本はこれまでにない「新しい人生」をスタートさせることができた。二人の前には、明るい未来が拓けている。そう、思えたのだったが・・・。


 この先、ネタバレのため未見の方はご注意願いたい。




 
 藤野と京本は二人三脚で漫画を描き続け、学生時代に「読み切り漫画」を7本も掲載されるという快挙を達成する。担当編集者から「二人が高校を卒業したら、連載漫画を描いてほしいと編集長が言っている」と朗報がもたらされ、藤野は喜ぶ。「本当ですか!」「あぁ、本当だ。すでに読み切り7本を描いているんだから、遅いくらいだよ」 

 帰り道、京本は藤野に「わたし、美術の学校へ行きたい。だから、藤野ちゃんの連載手伝えない」と切り出した。焦る藤野。「いいよ、どうせ、京本は背景描いているだけだし」と軽く返したが、本心ではない。京本がいたから、京本の画力とセンスがあったから、二人の共作は巧く機能していた。藤野には京本無しに漫画の連載など考えられなかった。一旦は、承諾したものの、なんとか京本を翻意させようと言葉を続ける。「美大に行くって、あんたがひとりで大学生活できるわけないじゃん。いろんな人に出遭うんだよ。京本、コンビニだって一人で買い物できないじゃん。無理だよ、絶対無理。私と一緒にいる方が良いよ」 しかし、京本は折れなかった。「藤野ちゃんに頼らずに、ひとりで生きられるようにしたい・・・。それに・・・、もっと絵が巧くなりたいもん」 藤野と京本は別々の道を行くことになる。

 藤野は高校卒業後、連載漫画家となった。昼も夜も漫画を描いた。連載漫画「シャークキック」の人気は上がったり下がったりしながら、単行本の巻数は増えて行く。苦しんで苦しんで、悩んで、漫画を描いた。アシスタントは何人も替わった。やがて、「シャークキック」の人気は鰻上りになって、増刷も重なって行く。そんな時、藤野はTVのニュースに気づく。京本が通う山形美大を通り魔が襲撃し、美大生から多くの犠牲者が出ているというものだった。嫌な予感がして、あわてて、藤野は京本に電話をするが呼び出し音がするだけで京本は出ない。そこへ、母親からの電話が・・・。京本が死んだという知らせだった。

 京本の自宅。京本の部屋の前で立ち尽くす藤野。足元に自分の漫画の掲載誌があることに気づき、手にする。ぼんやりページをくる藤野。ぱらぱらと、反対にページをめくっていると、やがて、ページの間に「京本を部屋から出す契機となった、あの四コマ漫画」が挟んであるのを見つける。ハッとした。「京本が死んだのは、私のせいだ。私がこれを描かなければ京本は死なずに済んだのに・・・。どうして、こんな意味のないことをしたんだろう」 藤野は泣きながら、原稿をびりびりに破いた。すると、「出てこないで!!」のコマが描かれた紙片が手から落ち、するりとドアの隙間から京本の部屋に滑り込んでいった。

 部屋の中。小学生の京本が絵を描いていると、ドアの隙間から紙片が飛んできた。「出てこないで・・・」京本が紙片の文字を読んで、ドアを開けると、玄関から声がする。「卒業証書、ここへ置いておきますね」 京本は「・・・幽霊だ」とつぶやく。

 背景美術に興味をもった京本はやがて、山形美大に入学。「その日」、校舎の休憩コーナーでソファに座って京本が休んでいると、見知らぬ男がツルハシを手に興奮して入って来た。「俺がネットにアップした絵をパクったのあったろ! 見下しやがって、俺のアイデアだったのに。パクってんじゃねえ!!」 男は絶叫しながらツルハシを振り上げ、京本に襲いかかった。殺される! その時、誰かが飛び込んで来て、男の背中に強烈な飛び蹴りを食わせる。藤野だった。彼女は倒れた男にさらに殴りかかる。

 救急車のストレッチャーに載せられている藤野。警官に「おかしな男が凶器を持って美大に入って行くのが見えたので後を追いました。それで、飛び蹴りをしたら、私の脚が折れちゃって」と説明する。京本が「あらためてお礼に伺いたいので、電話番号を教えてください」と藤野に声をかけると藤野は「いいよ」とスマホを見せる。藤野という名前に、驚く京本。「藤野先生ですか? 小学校の学年新聞に漫画を描いていた? どうして、漫画をやめちゃったんですか?」「最近、また描きはじめたんだよ。連載決まったら、アシスタントになってね」藤野はにっこり笑いながら京本にピースサインをして、救急車は走り去った。

 帰宅した京本は小学校時代のスクラップブックを取り出して、懐かしそうに読みはじめた。そこには藤野の作品が大切に切り抜かれ、保存されていた。読み進めるうちに微笑む京本。新しい四コマ漫画の用紙が挟まっていることに気づき、机に向かって四コマ漫画を描く。それは今日の出来事を描いたギャグ漫画だった。不審者に襲われた京本を藤野が飛び蹴りで救ってくれる。藤野先生じゃないですか、と叫ぶ京本。ケガはないかね、それじゃ私はこれで、と去って行く藤野の背中にツルハシが刺さっているというオチ。描き終えて、ふふっと微笑む京本。その時、風が吹いて原稿が飛ばされ、ドアの隙間から廊下に吸い出されてしまう。

 ドアの外の暗い廊下。哀しみにくれる藤野のそばに原稿が落ちる。気がついて、原稿を拾い上げると、画風もオチも藤野そのものだが、描いたのは京本に違いない。タイトルは「背中を見て」。驚いて、ドアを開け、京本の部屋に入る藤本。真っ暗な部屋の中に、今まで京本がいた気配を確かに感じる。書棚には藤野の「シャークキック」が全巻、増刷分まで揃えて並べてある。机には書きかけの「読者アンケートはがき」。ドアの内側には、背中に「藤野歩」とマジックで書かれた赤い袢纏がかかっている。藤野は立ち尽くしたまま、京本と歩んだ日々を思い出していた。二度と還らない大切な日々。かけがえのない思い出が鮮やかに蘇って来た。藤野は決心する。京本のために、二人の思い出のために「シャークキック」の連載を再開しよう。今度は藤野が京本の背中を見て、前に進む。夜道をゆく藤野の歩みに力が戻って来た。東京の事務所に帰った藤野は、京本の部屋で拾った「あの四コマ漫画」をデスクの前の窓ガラスに貼った。これからも、二人はずっと一緒だ。京本に励まされ、再び漫画を描くのだ。京本の分まで漫画を描いて描いて、描き続けるのだ。朝が来て、昼が来て、夜が来る。藤野は漫画を描く・・・。




 素晴らしい感動の物語だった。素直に泣けた。甘酸っぱい青春ドラマでスタートし、哀しく切ないエンディングで終わるのかと思いきや、「時空を超えた奇跡」で再び泣けた。この奇跡が意味するのは、夢半ばにして、突然、命を絶たれた全てのクリエイター達への鎮魂の思いだろう。引きこもりだった京本は部屋を出て幸せだったのか、という藤野の問いに対する答えがそこにある。京本はいずれの道を選ぼうが、短くも幸せな、実りある人生を過ごせた。人生の価値は長さじゃない。いかに生きたかだ、そう悟ったからこそ、藤野は再び漫画に向かう。讃美歌のように「Light song」が流れるエンドロールが素晴らしい。ただただ、涙がこぼれる。

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 ※漫画賞準入選後、藤野(左)に連れ出された京本(右)は藤野に手を引かれ、にぎやかな街で色々な体験をする。彼女はもう「引きこもり」ではない。



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