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2024年04月17日18:08

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絶望という名の電車(実話です)

 一昨日、帰宅のための混みあった電車の中で、右隣に立っていたサラリーマンにイチャモンをつけられた。男は背広を着た頭髪がマンガ『オバケのQ太郎』に出てくる小池さんみたいな人で、年の頃は30代前半に思えた。
 その男に何を怒っているのか? と訊ねれば、ぼくの腕が触れたとか当たったとかで、文句を言っているのでした。
「あのな、こんな混んだ電車の中で腕が当たったとか触れたとか、あんたアホなんか? 混んだ電車が嫌なら、ハイヤーでも雇って通勤しろや、この貧乏人」と小池さんにぼくは毒ついてみた。
 小池さんはぼくに毒つかれて、余程頭に来たのかものすごい形相でぼくを睨んできた。
 ぼくはなんだか嬉しくなって、小池さんの背広を掴んで、ちょうどその時プラットホームへと入っていくところだった電車が止まると、小池さんを無理やり電車から引きずり降ろしてやった。
 ぼくは電車から降りた瞬間に、臨戦態勢に入っていた。ショルダーバックを肩から外し、腕時計も外してズボンのポケットにしまっていた。

「で、あんた、どうしたいの? おれは何でも受けて立つぞ!」と小池さんに言った。
 小池さんは、ぼくの喧嘩慣れした手際の良さと、まったくビビリの感じられない様子に、ひょっとしてこいつヤバイ奴かも、と思ったのか、少し上ずった声で「ちょっと注意しただけじゃないか」と早くも言い訳じみたことをほざき出した。
 ぼくはそんな小池さんに言った。
「あんた中国人なんか? 尖閣諸島は中国固有の領土だと日本を威嚇しながら、寄るな、入るなと叫んでいるだけの、あいつ等と同じじゃないか」
 そしてぼくは「おれは奥ゆかしくも知的な日本人だから専守防衛だ。こちらからは絶対手を出さない。だからお前から手を出せ。攻撃には反撃はしかたのないことだからな。でもおれの反撃がお前の攻撃の数倍、数十倍も上回っているとか文句言うなよな」とぼくが言ったその時だった。

 突然、知らない女がぼくと小池さんの間に割って入って来てこう言った。「喧嘩はダメよ! 二人とも落ち着きなさい」と。
 な、なんだ! このおばさん、どこから湧いてきたんだ? と思って「あんた誰?」とぼくが訊ねると、先ほどまで同じ電車に乗っていて、ぼくと小池さんが揉めているのを見ていて、争いを止めるために自分も電車から降車したとのことだった。このおばさん、年齢は40歳前後でメガネをかけていてPTAか何かには必ず一人や二人見かけるタイプの口うるさそうな女だった。
 ぼくは思った。このおばさんは「世界の警察」よろしくぼくと小池さんを仲裁するため、頼まれもしないのにわざわざ電車から降りた「アメ公」みたいな奴だな、と。

「あ、そうでしたか。それはご苦労なことでした。どうもありがとうございます」どうでも良かったのだが、根が紳士のぼくから思わずそんなうわべだけの御礼の言葉が口をついて出てしまった。
 するとPTAのおばさんがこう言った。
「とにかく喧嘩はダメよ! おじさんもそんなに怒らないでよ」とぼくを見ながらそう言った、というか言ってしまったのだ。
 PTAからの諫言に、ぼくは「おじさんだと? おじさん言うな!!」と突然声を荒げた。
 するとPTAは途端に身体が固まってしまい、ぼくを見る目の瞳孔が驚きと恐怖のためかキューンと急速に萎んでいく様子を見たような気がした。
 呆然と立ち尽くしたままの姿のPTAにぼくは言った。
「いまのは冗談ですよ。そんなに驚かなでください。ぼくらの争いを止めようとしているあなたにそんなこと本気で言うワケないでしょう。やだな〜」とわずかに笑みを顔に浮かべながらのぼくの演技だった。
 「おじさん、言うな!」と声を荒げたぼくに、最初ドン引き気味だった小池さんも、ぼくの「冗談ですよ〜」の言葉にホッと安堵したのか、薄ら笑いを浮かべながらぼくの方を見ていた。
「あん? お前、何が可笑しいんだよ。ヘラヘラ笑いやがってよ。元はといえば、お前の難癖から始まった話だろうが? 自分からアヤ付けておいて、相手が怒り出すとスグにビビる腰抜けが、結局、お前も中国と同じで実力も度胸もたいしたことないな」
 ぼくの言葉に小池さんも何か思うところがあったのか、「たしかにぼくも悪かったと思います」と伏し目がちに殊勝な言葉を吐いた。
「は? ぼくもだと? それを言うなら、ぼくがとか、ぼくだけが、の間違いじゃねぇのかよ?」とぼくが小池さんを問い詰めると、今度はまたPTAがいい気になってこう言い出した。「ほんと、もうやめましょうよ! じゃないと警察呼びますよ」言いながらPTAの右手にはスマホが握られていた。
 スマホを握る手とPTAの顔を交互に見ながらぼくは言った。
「警察呼んでみたら。でも、きっと後悔することになりますよ。どんな後悔なのかは今は言えないけど。それでも良ければどうぞ。ぼくは止めません」
 するとPTAは急にあたふたした感じで語り始めた。
「今日は警察への連絡はやめとくわ。最近みんなイライラし過ぎなのよ。・・・実は私も今日職場で嫌なことがあってイライラしていたのよ、でもあなた方に意見していたら少しスッキリしたかも」と。
 ぼくは正直、唖然とした。
「えっ、ちょっと!? じゃあ、あんた、自分の職場でのイライラを俺たちをダシに発散させてんのかよ!? 勘弁してくれよ。プライベートな問題を公共の交通機関に持ち込んで解消するなんて、あんたもどうかしてるよ」とぼくは吐き捨てるように声を上げた。

 すると、そこへ次の電車がプラットホームに轟音を立てながら滑るように入ってきた。
 しかたなくぼくは二人に呼びかけた。
「電車も来たことだし、今日のところは嫌なことはすべて水に流して、三人一緒に楽しく帰ろう!」と。

 するとどうだろう、小池さんもPTAもぼくの声には聞こえないフリで、すごすご他の車輛まで移動して電車に乗り込むのであった。
 ・・・なんか寂しいな、とぼくは思った。
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