1969年に作られた映画で、1940年代初頭のイタリアを舞台にした『サンタ・ビットリアの秘密』という傑作がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=8Afu1kOaHz0
この作品は、イタリアのサンタ・ビットリアという村の出身で今は都市(ローマ?)の大学で学んでいる学生が、自転車をとばして「ムッソリーニが失脚した」というビッグニュースを村にもたらすところから始まります。
ところが、ムッソリーニが失脚したと聞いても村人たちの反応は薄く、それがどうした?といった感じです。そこで、少しものの分かった村人が、これからは○○(←ムッソリーニやファシスト党の威を借りて村人たちに威張り散らしていた男)の足蹴にされなくてもいいんだ(むしろ我々がヤツを蹴り飛ばせるんだぞ!)と説明してやると、俄然、反応は熱くなって、〇〇は尻を蹴られながら村人たちから追い掛け回され、その一方で、飲んだくれの道化扱いされながら人気はあった主人公が村長に祭り上げられ、、、といった大騒動になります。
そして、以前こちらの日記(
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985487130&owner_id=22841595)で触れたように、その後、ナチスドイツが進駐してくるのですが、その時も、村長も含めて村人たちにはナチスドイツが来るということがどういうことを意味するのかがピンと来ません。ところが、ナチスドイツの進駐は村にあるワインが没収されることを意味すると分かると、途端にこれはエライことだと村中大騒ぎになり、村人たちが必死になってワインを隠そうとする様子(←これも感動的に面白い)も描かれています。
ところで、いきなり話は変わりますが、今、ロシアではプーチ・ダモイという動きがあるそうです。
プーチ・ダモイというのは、ウクライナへの軍事侵攻に動員されている兵士の妻や母たちが、「家族を返せ」と夫や息子の帰還(一時的なものも含む)を求めて政府等の当局に対して行うデモ等の抗議活動のことです。最近ではその声が大きくなり、政府当局がこれを抑え込むことに手を焼いている様子が、昨日のNHKの『クローズアップ現代』で伝えられましたから、ご覧になった人もいるかもしれません(視聴してない人でもNHKプラスでは、4月9日まで視聴可能です)。
普通の反体制派の活動なら、厳しく弾圧することもできるのですが、「家族」を前面に出されると、これを下手に弾圧しようものなら、いっぺんに国民の大多数を敵に回すことになるので、当局としても簡単に手が出せずにいるのです。
上述の『サンタ・ビットリアの秘密』やプーチ・ダモイから見えてくることは、人間というものは、ムッソリーニの失脚とか戦争反対とかの、重要でもやや距離があることでは(同情することはあっても)結局あまり意味のある行動には出ないことが多いのに対し、ワイン(酒)とか夫とかの自分の生活に非常に近い所にあるものとの関係では、必死になってこれを守ろうと行動するので、これを抑え込むことは権力者でも難しいということだと思います。
そう云えば、今日、教科書レベルでは、もっぱら、自由、平等、民主主義等の美名と共に語られるフランス革命も、現実には、当時の人々があそこまで行動できたのは飢饉により食えなくなるのではないかという不安が極限に達していたためであり、最初から自由、平等、民主主義等が念頭に置かれていたわけではないと云われていますね。
また、ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』によれば、ソ連の強制収容所でも、ウォッカは呑めたことが分かります。ソ連の権力者といえども被収容者からウォッカを奪うことまではできなかったということです。
おそらく、好むと好まざるとに関わらず、これが人間というものの現実なのであろうと思われます。
なので、イスラエル・ガザの問題でも、ジェノサイド反対とか人道援助の必要性などが声高に唱えられているうちは(それらは正しく重要なことではありますが)残念ながら事態は動かないことと思います。相手を攻撃し続けるかぎり、自分たちが生活の身近に在る途方もなく大切なものを失っていることに双方が気付かない限り、事態は動かないことでしょう。
長年紛争を嫌でも続けている現地の人たちに言わせれば、「そんなことはとっくの昔に分かっている。分かっていても、(相手のせいで)止められないんだ。紛争を途中からしか知らないくせに生意気言うな!」ということかもしれませんが、少なくとも、事実として彼らがその大切なものを本当の意味で大切に出来ていないことだけは事実であろうと思われます。
余談ですが、『サンタ・ビットリアの秘密』には主人公(村長)の妻の役でアンナ・マニャーニが出てくるのですが、やっぱりこの女優さんは素晴らしいです。私は、以前からこの人をイタリア人女優のナンバー1に推しているのですが(
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942792208&owner_id=22841595)、ものすごい迫力でイタリアのマンマを演じてくれていて痛快です。
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