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2024年02月09日02:32

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主役に予定した女優が病気で代役を立てた映画だそうですが、きちんとルックスに沿った映画に出来上がっていますね。成瀬巳喜男監督「夫婦」(1953)。

成瀬巳喜男作品として「めし」がヒットしたことから、同じく上原謙と原節子の夫婦役による映画として企画されていたそうです。←成瀬巳喜男生誕100年記念というNHK−BSで放送したバージョンに、草笛光子が語る3分間のこの逸話が付属していました。

物語は、銀座のデパート(松坂屋でしょう)の屋上で中原菊子(杉葉子)が同級生仲間と会っている場面から始まります。子供のようにデパートのてっぺんから手をふる菊子に対し、同級生がうらやましそう(写真2)。だから“髪の毛がボサボサ”などと貶します。←中北千枝子だから実感がこももっている。←「稲妻」の直後の作品だし(笑)。

菊子は夫・中原(上原謙)の本社転勤で、一旦実家に戻ってきたのでした。鰻屋を営む早川家(父は藤原釜足)では、長男・茂吉(小林桂樹)の結婚話が進んでいる、そこへ結婚5年目の娘・菊子が帰ってきたわけです。末娘の久美子(岡田茉莉子、写真3)は兄の結婚話にうきうきしている。しかし菊子は中原と実家に住むつもりだったのに、長男が結婚するから家を探さないといけないのでした。

中原は同僚武村(三國連太郎)の家に間借りさせてもらうことにしますが、奥さんを亡くしたばかりの武村は、美人妻の菊子に世話されて惚れ込んでしまう。このあたりが、杉葉子の容姿とぴったり合っているように僕には思え、三國が妻を亡くして100か日も会社を休んでいたなど、怪しすぎる設定なので“?”を浮かべながらも、上原謙には同情せず杉葉子の側に立ってしまいました。

なんといっても杉葉子、僕が小学4年生の時に亡くなった叔母を思わせる。←もちろんそこまで美人じゃないけど、雰囲気がね。僕にはいい叔母でしたから、贔屓目です。上原謙も、あんなに単細胞に反応するのはいかんなぁ。原節子が主役なら、「めし」のようにほんわかムードで通せたのかもね。

とりあえず茂吉の嫁のつてで間借りする家が世田谷に見つかり引っ越すのですが、その条件が“子供なしの夫婦”だったので、菊子の妊娠が判明すると中原は“堕ろそう”と言うのでした。このあたりも原節子だったら違う展開だったのではと考えてしまいました。あるいは、原節子がこの展開の脚本を読んで“自分には向かない役だ”と考えて降板したのではないのか?←全くの邪推ですが、可能性はあると思う。

とりあえず脚本は水木洋子と井手俊郎の共作。水木洋子というと男女関係に肉薄している作家だと印象が強く(とりわけ最近そう感じてます)、杉葉子の同級生たち(中北千枝子ら)が結構露骨に夫との関係などを話しているし、三國に対する女子社員たちの接し方などもかなり露骨に感じました。

もっとも僕は最近、成瀬作品を池島ゆたか監督のピンク映画と並べて考えているもので、より夫婦間の関係をあからさまに考えてしまいます。つまり、世田谷の間借り先に引っ越した直後というのは、三國と妻の関係が一段落している(つまり夫との関係が戻っている)訳で、妊娠という展開にすんなり入り込めたのでした。これは成瀬監督、ぜったいに狙っていると思う。

ま、未見の方にはなんの話かわからないでしょうが、ピンク映画なら売りの絡みシーンの口実としての男女関係を、一般映画はほのめかし程度にしか描けなかった時代の映画なのです。アメリカのセンサーシップが強烈だったころのビリー・ワイルダー作品と似ています。←「麗しのサブリナ」を参照ください。

ということで、87分しかない作品ですが、すんなりと映画に乗せられました。結婚してすぐ(5年をすぐとは言わないか?)奥さんが妊娠するという一大イベントを、なかなかの愛憎劇に仕立て上げていると感心します。でも、縁のない人には縁のない話だろうなぁ。←どんな物語でも、そのとおりだけど(笑)。
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