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2023年12月03日14:09

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文豪の裏の顔

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司馬遼󠄁太郎というと、今日の私たちは膨大な資料の読み込みに裏打ちされた綿密な歴史小説を産み出した合理主義者、その一面だけを見がちだ。事実後年になるほど彼はその側面を強調するかのように世間に印象を与え続けてきた。

反面、デビュー作『ペルシャの幻術師』、出世作『梟の城』に裏打ちされた合理主義だけでは割り切れない、かつての日本人が夜の闇から想像した神秘的なものへの畏れと憧れ、人類がかつて原始的な生き物だった頃から由来する自然への想いが活写されているかのようだ。

あるいはそれは、司馬さんの没後私が『ペルシャの幻術師』を初めて読んだ時の印象といくらかでも符号するかもしれない。先述のデビュー作と姉妹作というべき『戎壁の匈奴(ゴビのきょうど)』を一読した時、短編ながらもそこに広がる雄大な世界観に魅了されたのを思い出す。

もしもこの二編を合体させて一つの映画を撮るなら、誰を主役に据えるか、配役をどうするか。素人ながらもそのような想像を巡らせたほど空想力を膨らませた。一級の芸術作品は新たな創作意欲を刺激する。そのことを二編の短編から示唆された。

同じ想いは本書の著者も抱いたのではないか。もしも自分に小説をものにする手腕さえあれば、ここから影響を受けた作品を産み出しただろうに、と。司馬遼󠄁太郎という作家を『ペルシャの幻術師』の頃から注目し、後に親交を結んだというだけに優れた才能を発掘したという喜びは司馬さんを引き上げたという自負を持つ海音寺潮五郎の想いといくらかでも符号するであろう。

奔放な空想力に裏打ちされた雄大無比な世界観。本書はそんな大作家の若き頃の実像に迫った意欲作といえよう。

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