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2023年10月24日08:41

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「手塚治虫 ブラック・ジャック展」

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出張と出張の合間は仕事に追われるのが常だが、いつの間にか開催期間が終盤に近づいたので、仕事の手を停めて、六本木ヒルズ52階の「東京シティビュー」で開催中の「手塚治虫 ブラック・ジャック展」に出かけて来た。

 私は子どもの頃から手塚漫画に親しんできた。中一の頃、親友の家へ毎日のように遊びに出かけたが、彼には歳の離れた兄貴が二人いた。兄貴たちの部屋には山のようなエロ本に混じって、ありとあらゆる少年漫画週刊誌が積んである。それを探して来ては親友の部屋で読む時間が好きだった。たまに、大学生の兄貴のベッドにナイスバディの綺麗なお姉さんが下着姿で眠っていることがあり、子どもの私には刺激が強い「おとなの空間」だった。

 少年漫画週刊誌に掲載されている漫画の中で、手塚治虫の作品はいつも異彩を放っていた。他の漫画にはない深いドラマがあった。いつしか、手塚の作品を選んで読むようになったが、どっぷりハマったのは大学一年だった。入学して知り合った友人達と神田の古書店街に繰り出した時、そろそろ、昼食にしようかという段になって、仲間のひとりが「手塚の新刊を買いたいので、今日は昼を抜く」と言い出した。彼は田舎から上京して学生専用の古くて狭い4畳半一間のアパートに住み、夜は居酒屋でアルバイトをして学費を捻出する苦学生だった。昼食を抜いてまで「手塚の新刊を買いたい」という彼の言葉に私はちょっと驚き、「昼食はおごるから、手塚漫画のどこがそんなに良いのか話して聞かせてくれ」と提案した。「いもや」で天ぷら定食を食べている間、彼はずっと、手塚漫画がいかに面白いかを語ってくれた。彼が挙げる作品名は「人間昆虫記」「鳥人体系」「きりひと賛歌」「奇子」など、どれも馴染みがない青年向けの漫画で、その内容は実に新鮮だった。それ以降、大学時代に私の手塚コレクションは増え続け、卒業までにその数は400冊を超える。

 私が一番惹かれたのは、手塚治虫漫画家生活35周年記念と謳って連載がはじまった「ブラック・ジャック」である。不可能を可能にする天才外科医(ただし、無免許)が主人公の医療漫画だった。これは、とんでもなく面白かった。後年、大スランプのどん底にいた手塚の「死に水」をとるつもりで、当時の週刊少年チャンピオン編集長が「一話完結、劇画調の作品、3〜4話掲載して人気が出なければそれで連載終了」という条件で、手塚に描かせたものだったと知るが、当時はそんな背景があったとは夢にも思わない。毎週毎週、夢中になって新しいエピソードを読んだ。

 「ブラック・ジャック」で手塚は完全に復活した。いや、復活しただけではなく、全く別の次元に到達したと言って良いだろう。「珠玉の名作傑作」が次々に生み出された。中でも私が好きなのは「ときには真珠のように」「アリの足」「六等星」「ある老婆の思い出」などだが、恩師・本間丈太郎医師とのエピソードはブラック・ジャックの原点を知る上で特に重要だ。

 さて、六本木ヒルズの東京シティビューで開催中の「手塚治虫 ブラック・ジャック展」である。全エピソードの中からテーマ別にセレクトされた原画が展示の中心になっていた。いつ見ても、原画のもつ迫力と神秘さには感銘を受ける。しかし、原画展示に依存する内容は企画展の構成として賛否が分かれるところだ。事実、私のような古くからのファンにとっては若干、物足りなさを感じた。それでも、「ブラック・ジャック」という作品の魅力と自らのブラックジャック愛を再認識する上で、この展覧会は充分に意味のあるものだった。いくつかのエピソードを前に感動を新たにし、目頭が熱くなった。「おばあちゃん」「コマドリと少年」の前ではしばし立ち尽くしてしまったほどだ。無理をして、出かけて本当に良かったと思う。

ブラックジャック Blackjack
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