9回の表、東大は4−2で負けていた。打順は8番の藤田君からだ。そして9番打者はピッチャーの三田村君。しかしネクストでバットを振っていたのは背番号10の梅林君だった。
藤田君は外野フライに倒れて梅林君が出てくると代打のアナウンスがある前から東大応援団だけではなく1塁側からも大きな拍手と声援があがった。そして豪快な空振り三振に倒れるとそれ以上の大声援が神宮にこだました。代打で出て三振してこれだけ称賛される選手は少なくとも大学野球では見たことがない。
今日は早慶を除く最終週。もちろん勝敗は大事だが4年生最後の記念代打なども当然ある。しかしプロ野球の名選手による引退最後の打席ではない。六大学でもこんなに惜しまれて最後の代打として登場する選手がいたのだ。
東大ファンだけではなく六大学を愛する人ならだれでもわかる。梅林君は静岡高校時代に甲子園出場経験がある今季の東大の主将である。
昨年の秋、東大は開幕戦で明治と引き分けた。続く第2週では慶應から1勝を挙げた。シーズン12試合を戦って1勝1分け10敗だった東大。そのすべての試合に梅林君は先発出場し上位打線を打つ主力だった。慶應は明治からも勝ち点を挙げて早慶戦で勝ち点を奪えば完全優勝だったがその勝ち点を落とし勝率の差で明治が優勝となったシーズンだ。東大はその上位2校に1勝を挙げ1つは引き分けた。
そして主将として梅林君が迎えた今年の春季。開幕戦の明治戦はまたしても延長での1点差負けと昨年の秋と同様、優勝チームに善戦して見せた東大。梅林君は当然の如く4番を打っていた。しかしチームは健闘するが梅林君の打撃は上がってこない。
打順も4番から5番、そして6番と下がっていき4カード目の立教戦ではついにスタメンから外れて代打での1打席だけ。そして立教2回戦と最後の法政とのカードでは出場機会はなかった。
そしてこの秋にもこれまで1試合だけの出場。それも8回の裏に1塁手として出ただけだ。
試合が終わってリーグ最終戦となったこの試合に限って選手たちは応援スタンド前まで行って挨拶をする。頭を下げた梅林君は最後まで頭を挙げることができなかった。3塁側スタンドで行われたこの東大の挨拶をボクは1塁内野席から見ていたが、彼が泣き崩れていることは遠くからでもわかった。
甲子園キャリアがある東大の選手。それだけでも誰もが注目しただけに彼へのプレッシャーは相当なものだったのかもしれない。
静岡高校に入学した直後は梅林君の学力成績はトップクラスだったと聞く。野球などやらずに勉学に励んでいれば現役東大合格など楽勝だったのではないだろうか。しかし彼は野球部員として練習に励み甲子園出場時にはベンチ入りも果たした。
誰もが卒業する。その感慨はもちろんすべて異なり他人には誰もが計り知れない。だが、今日の神宮球場が彼に送った拍手。主将として試合での活躍は出来なかった梅林君ではあるが、この拍手声援が彼のこの4年間での答えなのではないだろうか。
心からお疲れ様と拍手を送りたいとボク思った。
2023年10月22日 東京六大学野球秋季リーグ戦 第7週2回戦(於 明治神宮野球場)
東大
000 200 000 = 2
300 001 00x = 4
立教
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