今回の『街道をゆく』は、精妙な短編集を彷彿とさせる読み応えがある。とはいえ、すべての紀行文に触れるには紙幅が足りない。四編あるうちから最後の"砂鉄のみち"を拾い起こしてみる。
わが国に稲作が急速に伝播した背景として、鉄の存在を抜きには語れないであろう。製鉄という技術が導入すればこそ、私たちの祖先はこれを元にして土木用・耕作用の道具をこさえて人口を飛躍的に増やし、それに比重するだけの文化も産み出した。いわば文明の利器というものの存在をはずしては日本文化は花開かなかったわけである。
何より日本人に幸いしたのは、製鉄の基礎となる砂鉄を取り出すのに必要な薪を生み出す材木が豊富であったことだ。高温多湿なこの国は、水の国でもあり雨によって材木が刈られた山を禿山にするのを防いでくれた。
豊かな自然環境なしでは製鉄文化の発展はなし得なかったわけなので、その意味で古代の朝鮮半島が製鉄を推し進めながらも、降雨が乏しかったためにその果実を得ること少なかった。そのような不幸に思いを巡らせなければいけない。
その半島からの渡来人の集団から、わが国において製鉄を行うひとびとが土着したことは歴史の発展という意味では見逃せない一事といえよう。日本という国は、正に中国大陸や朝鮮半島の影響を受けて発達したことを忘れてはいけない。
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