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2023年08月27日00:27

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やはりフルーツ・チャン監督は、見続けるべきアジア人監督だと納得しました。フルーツ・チャン監督「三人の夫」(2018)。

この作品は、「ドリアン・ドリアン」(2000)「ハリウッド★ホンコン」(2001)に続く三部作なのだそうです。それを18年後にようやく完成させたらしい。その執念もすごいけれど、作品の内容が実に僕好みなのでした。オールシネマ・オンラインによると“尽きることのない性欲を持った一人の女と、彼女の性欲を持て余す3人の男たちが織りなす滑稽かつ寓話的な人間模様”ということ。この内容について、僕は何も補足しませんし、非難もしません。

主人公の女ムイを演じるのがクロエ・マーヤンですが、この映画のためにずいぶん太ったらしい。僕は別にデブセンではないから、本来はこういうタイプの女性を好んでは見ません。しかし、いささかネジが外れたムイという女性を、クロエ・マーヤンは見事に具体化しました。太っているだけではなく、その姿かたちから、圧倒的な“愛情”がほとばしり出ているのです。←写真などを見てそう感じない方は、どうぞこの作品に手を出さないでください。

僕はムイという女性が、ボロ船の上で売春行為を働き、それに多くの野郎どもが列を作って並んでいるシーンを見て、すんなりと納得しまったわけです。この“説得力”こそが映画だと僕は思う。説得力があるからこそ、香港と中国本土との問題がいろいろと心に突き刺さるのでした。しかし、それらは単なる政治的標語ではなく、単なるスローガンでもない、映画が本来語りかけるべきリアルな人生の物語そのものなのです。

imdbの点数は、なんと5.7点。544人しか投票していないのに、最低点を投じた人間が50人もいます。これを僕は、本土政府のまわし者達による工作だと断じたい。20世紀末に来日したとき、チャン監督はとにかく熱心に本土復帰反対を語っていました。そのとき何もできなかった僕ですが、この「三人の夫」に9点を投じることで、少しはチャン監督に報いたいと考えます。

本当に、驚くほど太ったムイの肉体は、いとおしくて素敵でした。太る前のクロエ・マーヤンの姿を特典映像で見た僕は、大谷翔平並みの肉体改造を成し遂げていると評価したい。太った上に、あの眼差しの見事さ。狂気を含んだ眼差しが僕の心を射すくめ、チャン監督への18年前の“不義理”を、痛烈に批判し尽くしたのでした。

ムイが男と寝る行為に、どこまで本気で喜びを感じているのか、それはちょっとやそっとでは理解できません。しかしその性愛への喜びは、桁外れに大きい。そんなムイを、少しでも喜ばせようとする三人の夫たちの態度は、ご都合主義的な方法だけれど憎めないのでした。この三人の“動機”を否定するなら、その人は“道徳に殉職”するほかないのではないか?

つまりムイに性愛の喜びを提供し続けることが、三人の夫たちの“正義”であり、彼らが行える最大の“善行”なのだと僕は感じました。冒頭からカラーできらびやかに展開したこの性愛狂想曲は、しかし終盤にはどんどん色彩を失いモノクロームの世界へと沈んでいきます。その閉塞感は、まさにフルーツ・チャンが感じた香港の現実(そして未来)なのだと思う。

僕たちはせいぜい、その閉塞感を胸にしてこの映画とともに“窒息”して、お互いの傷を舐め合うしかないのでしょう。だって世界はウクライナに宣戦布告したロシアが戦いを続けていて、経済大国の中国は自らの経済の行き詰まりを打開するために、ロシアと組んで西欧諸国と対抗する勢力図を完成させようとしています。

警察に追われた三人の夫たちは、新しい常識を押し付ける世界の中で、せいぜい逃げ回ってこそこそ生きるしか道はない。そんな20世紀末からますます悪化する政治経済状況を、我々はこのキテレツなファンタジー・コメディーで楽しんでウサを晴らすしかないのです。

しかし僕は請け合います。この映画の本質を見間違えなければ、20世紀末の政治判断の誤りを正すことができるはずだと。だからこそ僕は思うわけです。フルーツ・チャンは「トイレ、どこですか?」なんていうピンボケメッセージ映画を作っている場合ではないのです。もういちどチャン監督の作品を回顧上映して、“正しかったあの論理”をきちんと学び直しましょう。
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