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2023年05月30日14:40

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改革者の肖像

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かつてケネディ大統領が生前、日本の記者団に尊敬する日本人は誰かと尋ねられたところ、

「上杉鷹山」

と即座に答えたという。ただし悲しいのは日本記者団は一人として"ウエスギヨウザン"なる名前を知らず、我が身の無知をさらす羽目になったのだとか。戦後GHQの指令によって、我が国の歴史が抹消されたに等しかったとはいえ、情報社会の先兵たるべき記者が知らなかったというのは不勉強にも程がある。

戦後間もなく、二宮尊徳を軍国主義の広告塔と切って捨てた教育現場を垣間見たという筆者は、歯痒さを感じたのではないか。何故なら上杉鷹山の存在というのは、二宮尊徳へと繋がる質素・倹約に人の情を温かみとして加えた改革の系譜であるからだ。

その意味で時代・時代の一方的な価値観で、誰それは善、あれは悪などと単純な二分化で分けるのはいかがなものか。世のため、人のために尽くした人たちを歪なイデオロギーで見誤っていたことへの弊害もいつか鷹山のことを書きたいと思い続けた原点であろう。

本書は山形新聞で連載していた小説版を第一部とし、上杉鷹山の経営学、再考・上杉鷹山を収録した完全版と銘打った一冊だ。小説を一つの文学形式にだけはめ込もうとする人たちにとっては、経営者へのハウツー書もドッキングさせたこの一書は邪道と映るかもしれない。筆者の童門冬二や出版元のPHP研究所は狭い料簡とせせら笑うだろう。

少なくともこの書籍からは、文学という狭い一括りだけでは収めきれない鷹山の魅力が充溢している。確かに埋もれていた歴史上の人物を掘り起こすのも文学の使命だろうが、文学だけにそれを任せるのはもったいないと筆者は感じたのであろう。かつて美濃部都政の下でスピーチライターも勤めた筆者なりの文学の捉え方もあったと思う。

私は童門氏の清濁合わせ呑む文学作法もありだと思っている。現在(5/29)95歳、今後どのような著作を著すか注目したい。


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