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2023年03月30日11:03

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【バレエ】Kバレエ「白鳥の湖」(26日)

雨の日は駐車場が満杯になってしまうので早目に現着し、文化村のロビーラウンジでランチを摂っていた時のこと。そろそろ高齢の範疇に入りそうな女性二人組が目に入った。地味目なひとりは遅れてきたのか食事中で、一方的にしゃべりまくる派手目な相方の話を頷きながら聞いている。

ロビーラウンジのテーブルはまだ間隔を広くしたままで(コロナにばかり注意が向きがちだが、今期はインフルエンザもまだ収まっていない)、隣席との衝立には「食事をする時以外はマスクをしてね」との注意書きもあるのだが、すでに飲み干してしまったのか目の前のティーカップには手も伸ばさない派手目な相方はマスクもせずに大声でひたすら話していた。

地味目の相方が食事を終えても派手目の語りは止まらず、あとから着席した私が席を立ってもまだしゃべり続けていた。彼女のすぐ脇には、柵越しに席が空くのを待つ人たちの列が伸びており、それが目に入らないわけはないのだが。

やれやれと思いつつ入場すれば、「マスクをしてね」とアナウンスが流れているにもかかわらず、いい年をしたおっさんが数人、ノーマスクで客席の通路を闊歩していた。

少し前、最近の若者が高齢者を敬わないのは、高齢者と関わりを持つ機会が減ったから、とどこかの心理学者が語っていたが、そうじゃない。敬うに値しない老害が増えただけのこと。マスコミに露出する「心理学者」や「脳科学者」を自称する連中は、経歴を詐称しているのではないだろうか。


舞台の印象に残った事柄を羅列すると、まずベンノを演じた海斗くんのリズミカルでダイナミックな踊りはやはり目を惹く。ヴァリエーションが終わってもあちこちで演技を続けているし。シムキンくんとコチェトコワさんではないが、彼と実力・上背の合う相方がいれば、古典の主役を観てみたいものだ。

慈愛に満ちた蘭王妃のまなざしから、彼女がどれだけ王子を愛しているのかが伝わってくるが、怒っている時はとても怖い。(笑)

農民(?)の娘が王妃様に花束を献上するシーンがある。単なる演出だし、配役されたダンサーもそれらしい仕草はするけれどルーチンとしてこなしているようにしか見えなかったから、これまでは特に気にかけなかった。

ところが今回の子は「(高貴な方に花束を捧げるのが)私なんかでいいの?」と心の中の声が聞こえてきそうなほど全身に畏れをまとい、こうべを深く垂れて恭しく花束を捧げる様子が印象的だった。ちょっと気になってその後も時折彼女に視線を向ければ、「王子様素敵!」とばかりに笑顔で友人に手を伸ばすなど、常に何かをしている。誰だろう。

トロワの岩井さんは注目の若手のひとりのようであちこちに配役されているが、成田さんと並ぶとやはりまだ差は感じる。吉田くんも踊りはダイナミックだが、海斗くんのように余裕があるようには見えない。必死に頑張っている感じ。悪い事ではないけれど、一流と呼ばれる人たちは難しいこともさりげなく見せる。

余裕といえば杉野くん。昔はマントを持て余していたが、この日は自在に操っていた。キャシディさんの姿を観られないのは残念だが、後任を立派に果たしている。とはいえ彼の王子も観てみたい。感情が全身からあふれ出すような熱い演技をしてくれるのではないだろうか。

群舞を観て最初に思ったのは、足音、前からこんなにしていたっけ? だった。四羽も余裕が感じられず、3幕のキャラダンたちも悪くはないけれど物足りない。若手の比率が多いとこんな感じになる。楽日ではあるが面子はセカンド、サードだったのだろうか。オケも1幕と2幕に限ればまあまあの出来だったが、3幕になるとつまらないミスが目立ちはじめ、全般に艶と迫力が足りない。

総じて楽日のKにしてはいまひとつな舞台だったが、主役のふたりに関しては概ね満足だった。

堀内さんの長所と言えば練られた役作りで、今回それを強く感じたのは3幕だった。6人の姫たちが登場する場面でよく見かけるのは不機嫌さを隠さない仏頂面の王子。自分のあずかり知らぬところで母親が勝手にお膳立てしたイベントだから気持ちはわからないではないが、招かれた姫たちからすれば失礼な話だ。

ところが堀内王子は微笑みを浮かべている。なぜだろうと彼の演技に注目していると、姫たちが出揃ったあとも舞台下手の奥をみつめている。彼は7人目の姫、オデットが登城してくるのを待ちわびていたのだ。肩を落として戻ってきても、姫たちへの愛想笑いを忘れないところはさすが。ありそうでなかった大人の対応。(笑)

オディールに篭絡された後のヴァリでは全身から喜びが発散していた。バレエの様式に則り綺麗に踊る人はたくさんいるが、それは不正解。ここは一目惚れした相手との再会場面、欣喜雀躍高揚した気持ちを振りまいて踊るべきで、その方が後の落胆が生きてくる。

・・・と感想を語ると、先の花束娘とともにお師匠さまも同じところに注目していたそうな。弟子は似るということで。(笑)

小林さん、Kでは「最強の女」と呼ばれているらしい。(笑) バランスは彼女にしては少しふらついていたが、フェッテでは4回転を2回、3回転も複数回、平然と加えていた。3回転なんか簡単だから4回転も混ぜるのよ、みたいなことを語っていたマーフィーさんをつい思い出した。

井田さんが語るように、音楽性に富んでいることも彼女の長所だろう。テクニックを誇るダンサーは回転や跳躍の高さを重視しすぎて音楽からずれてしまうことがままあるが、小林さんは高度な技術を平然とこなしつつも演奏としっかりシンクロしている。加えて何度も書いているように、ワガノワ仕込みの大きくのびやかで優雅なムーブも彼女の持ち味だ。

オデットやオディールのイメージについては彼女なりにいろいろ考えているようだが、まだ個性を出すというよりは教科書的だった。フィリピエワさんやシェスタコワさん、ロパートキナさんといった名優たちの映像をまとめて見せてあげたい。

とはいえ、もののけにされてしまった悲しみ、出会いの喜び、ロットバルトへの恐れ、それでも仲間を守らなければというリーダーとしての決意は伝わってきたし、オディールの目力はもう一声だがカルメンなどで培われた色気がある。ロシア人ダンサーの話を聞いていると、こうした演技力は先生の指導による影響が大きいようだが、Kはどのようにしているのだろう。

小林さんが初めて「白鳥」の主役を務めたのは2015年、ショーコさんの代役(オディールのみ)だった。アウェーでの登板にもかかわらず終わってみれば拍手の嵐だったが、にもかかわらず2度目は3年後の2018年。Kの「白鳥」は2016年にも上演されたが、当時はベテラン荒井さんがメインで、矢内さんが若手の筆頭扱いだった。3度目はさらに2年後の2020年で、しかも1回のみ(この時の相方が堀内さん)。あとはショーコさん、矢内さん、成田さんが2回ずつ。

4度目(2021年)にしてようやく初日を担い、山本くんを相方に2回舞台に立ったが、5度目の今回は楽日担当とはいえ1回のみだった(日高さん、浅川さん、飯島さんが2回ずつ)。過去の楽日担当者を振り返ると、2015年がショーコさん、以後矢内さんが3度続き、前回(2021年)は日高さんが配されていたから、楽日はその時々のバレエ団押しの人が配役されるようだ。

しかし現状は、小林さんの実力からすると、とっくにプリンシパルに昇進していてもおかしくないにもかかわらず1級下のプリンシパルソリストだから、退団前の花道なのだろうかとつい勘ぐってしまった。次公演「蝶々夫人」にはケイト役として名前があるから、それはただの杞憂だったが、やはり釈然としない。

わくわくする彼女の踊りを眺めているうちに、もしかしたらこれを機会にいよいよプリンシパルへの昇進かとも思ったが、そのようなアナウンスも無かった。内外新旧様々な舞台を4桁は観ている者からすると、小林さんは世界に出しても見劣りしない優れたダンサーというのが客観的な評価だから、Kでの扱いは不可思議としか言えない。


今回の公演では、観覧中もついウクライナ戦争のことが頭をよぎり、これまでのように心から「白鳥」を楽しむことはできなかった。前の日記に記したように、チャイコフスキーやロシアのバレエ、ロシアの友人に対する敬愛の念に変わりはないが、だからと言ってロシアの蛮行は許容できるものではない。ウクライナが勝利し、街の復興が成しえても、今後は「白鳥」を観るたびに、ロットバルトに囚われた白鳥群舞と拉致されたウクライナの子供たちの姿が重なるのだろう。
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