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2023年01月06日21:26

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【バレエ】ウクライナ国立歌劇場「新春オペラ・バレエ・ガラ」(3日マチネ)

今回の日本公演について取り上げた某新聞の記事、基本的には好意的な内容ではあるが、チャイコフスキーはNGとする姿勢には疑問を呈していた。戦争と文化は別、しかもチャイコフスキーは200年近くも前、19世紀の人物、こういう時だからこそ大切にしていくべきなのでは、と。

言わんとすることはわかるし、実際、キーウ・クラシック・バレエのボロヴィーク芸監は「チャイコフスキーはどこかの国だけの存在ではない、世界が誇るかけがいのない存在だ」と語り、昨夏の来日公演では「白鳥の湖」を上演していた。

原則論としてなら私も同意するし、「チャイコフスキーの爺さんはウクライナ出身」と言い訳のように唱えながら、クリスマスにはマールイ、Kバレエ、そしてシェフチェンコの「くるみ」の動画を観て過ごした。

しかし、ロシア軍に家族や友人を惨殺されたウクライナの人々に「チャイコフスキーは別」と言えるのかと問われれば、私は言えない。今、言うべきことではないと思う。もし言ってしまったら、付け焼刃の稚拙な知識でウクライナを非難する低俗な輩と同類になってしまう。


アーティストやサッカー選手のように特殊なスキルを持つ人々は、戦場に赴くのではなくそのスキルを活かして世界にウクライナの現状を発信してほしい、とウクライナ政府や国民から託されたという話を聞いた時、アドベンチャー・レーサー田中陽希さんの「グレートトラバース」(日本三百名山一筆書き)中の1エピソードを思い出した。

島根県を移動中だった2018年4月、彼は馴染の温泉宿に宿泊中、震度5強の地震に遭遇した。NHKから仕事として請け負っていた彼には、旅を続ける義務がある。しかし目の前には崩壊しかかった建物に呆然とする宿のおかみさんたちがいて、その場にとどまり復旧の手伝いをするのが人として正しい道なのではと彼は葛藤する。だがおかみさんは「陽希さんが旅を続けることが私たちの励みになるから」と背中を押し、彼は泣きながら旅を続ける決断をした。

ウクライナのダンサーたちが日本を訪れるのは今回が初めてではなく、すでに何十年という付き合いがあり、自分たちの国よりも物が豊かな日本へ来ることを楽しみにしていたという。けれど昨年の夏は、舞台を終えた彼ら彼女らは自室に引きこもり、故国に残る家族の安否をスマホを通じて気遣い続けていた。

旅を続けた陽希さんの心の片隅にも、おかみさんの言葉が常にあったのだろう。旅を締めくくる最後の1座、頂上に建つ小さな祠の前で、彼はおかみさんからもらったお守りを取り出すと、中の五円玉をお賽銭として奉納した。


ガラは2部構成(55分、休憩20分、45分)で、第1部がオペラ、第2部がバレエ。

今回はさらに余裕を持って家を出たところ膾を吹いてしまったが、遅刻するよりはいい。持て余した時間はトラの写真を撮ったり、ニュース番組の解説者としてすっかりお馴染みになった小泉さんの最新刊を読んで過ごした。

開演前、なんとなくアンコールでウクライナ国歌を演奏するのかな、その時はどうしようと漠然と考えていた。というのも、スポーツの国際試合などを見ている方はご存知と思うが、国家斉唱(演奏)の際は起立して敬意を表するのが慣習だからだ。でも今回は舞台公演だし・・・。

ところが幕が上がると舞台にはコーラスが整列し、その背後には巨大なウクライナ国旗が投影され、オケがすっかり耳に馴染んでしまった前奏を奏で始めた(配役表には第1部の第1曲目に「ウクライナは滅びず」と記してあったのだが、バレエの演目は「パキータ」のみだったので、後でいいやと見ていなかった)。

慌てて周囲を見回すと観客はみな座ったままだったので、着席のまま背筋を伸ばし居住まいを正すことにしたが、気になって帰宅後調べてみた。すると・・・。

https://www.bing.com/videos/search?&q=%e3%82%a6%e3%82%af%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%8a%e5%9b%bd%e6%ad%8c&view=detail&mid=D0292C746753E4A945FCD0292C746753E4A945FC&FORM=VDRVSR&ru=%2Fvideos%2Fsearch%3Fq%3D%25e3%2582%25a6%25e3%2582%25af%25e3%2583%25a9%25e3%2582%25a4%25e3%2583%258a%25e5%259b%25bd%25e6%25ad%258c%26FORM%3DHDRSC3&ajaxhist=0

聴衆が起立する例はほかにもあり、他人は他人、私も立てば良かったと後悔している。


2曲目以降は次の通り。

ルイセンコ「タラス・ブーリバ」序曲
ビゼー「カルメン」よりハバネラ
プッチーニ「トゥーランドット」より誰も寝てはならぬ
マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」より復活祭の合唱「主はよみがえられた」
ヴェルディ「ナブッコ」より「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」
ベートヴェン「交響曲9番」より「歓喜の歌」

外国からの要人を迎えた晩餐会では提供されるワインの銘柄にも意味があるように、今回の選曲にもいろいろな想いがこめられているはずで、「カルメン」は6日から始まったオペラ公演の宣伝、「9番」は未来への希望と祈り、他の曲もなんとなく察しがつく。


第2部の「パキータ」、大元はパリオペで初演された2幕の恋物語で、マジリエが振付け、音楽はデルヴェデスだったが、30年以上経ってからプティパがミンクスの曲と振付を追加、我々がよく見聞きするのはそれがベースになっている。たしかに華やかで正月向きの作品ではあるが、いいのだろうか。「ラ・バヤデール」のように何か理由があるのかもしれない。一応ソ連版そのものをやるのではなく、マラーホフ版とのこと。彼は言わずと知れたウクライナ出身の超一流ダンサーである。

ダンサー、オケともに、さらに良くなっていた。避難中も最低限のトレーニングはかかさず、日本に来てからはほぼ連日の本番に舞台感も戻りつつあるのだろう。日本公演後も他国で踊れるとよいのだが。

パキータはクラフチェンコさん。今回は縁があるようだ。ちょっと顎を突き出したどや顔で客席を見渡す様子が微笑ましい。他の人が調子を上げてくるとさすがに若干見劣りはするが、それでも回を追うごとに彼女も成長している。戦争が終わり、再び日本に来た時は、どのような踊りで魅せてくれるのだろう。

リュシアンはスハルコフくん。ロイヤルのムンタギロフくん、マールイのレベデフくんとともに、個人的に今最も注目している若手男性ダンサー。今回の来日メンバーでは、いちばん観たかった踊り手だ。

カトルは女性がパンチェンコさんとデフチャローヴァさん、男性がネトルネンコさんとドロボットくん。女性ではデフチャローヴァさん、男性ではやはりネトルネンコさんが上手い。パンチェンコさんとドロボットくんは発展途上の若手だが、デフチャローヴァさんはどういう素性なのだろう。

ヴァリはチュピナさん、イエリセーヴァさん、テルヴァルさん、そしてデフチャローヴァさんが予定されていたが、第2のイエリセーヴァさんが体調不良で降板、そのまま割愛となった。2ヴァリは「ドンQ」のQPの曲だからちょっと残念。そういえば3ヴァリのテルヴァルさんは先日の「ドンQ」でQPを踊っていた。一人減ってしまったが、久しぶりにレベルの高いヴァリを堪能した。

前の日記で足音について触れたが、こちらもさらに磨きがかかっていた。思わずこの作品はバレエ・シューズだった? と爪先をガン見してしまったほど。

足音の話をすると、ポワントや床の材質の違いだという人がいる。実際オペラ・シティで観たオケとのコラボ公演では薄い衝撃吸収材を置いただけだったので、ここのダンサーたちも足音を消すのに苦労していた。しかしその時は、「全員が」足音をさせていた。

では普通のバレエ公演はと言うと、足音が「する人としない人」がいるから、そうなると床材のせいとは言い難い。ならばポワントの影響なのか。ポワントは人によって使うタイプ(製品)が異なり、音の出にくいポワントもあるという。ソリスト以上のお金に余裕のある人ならその可能性も考えられるが、バレエ団支給のポワントを使う群舞に足音のする人としない人がいるのはどう説明したらいいのか。ポワントや床の材質の影響が皆無とは言わないが、やはり消音はダンサーの踊りのスキルが一番ものをいうのだろう。


カテコで何度目かの幕が上がると、若手指揮者プリシュさんとともにオペラ歌手の面々も勢ぞろい、アンコールを披露してくれた。残念ながら何の曲かわからなかったが、ジャジューラさんとほか何人かが右手を胸にあてる仕草をしていた。ただしダンサーたちが口ずさむようなことはなかったので、国歌に準じ、でも皆が歌えるわけではないとなると、何の曲なのか気になる。
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