ジェラール・フィリップつながりで見ました。これだけ連続して放送されたらHDDがいくつあっても足りなくなるので、どんどん見て消化しないと。画質を確かめた上でブルーレイに焼くつもりなのです。しかしこのシリーズの“デジタル・リストア”は、とてもきちんとできているように思います。溝口健二の「近松物語」と並べてもいい“いい仕事”でしょう。
物語は、しがない小学校の音楽教師クロード(ジェラール・フィリップ)が、作曲家として成功したいと毎夜精を出しているのですが、大家が自動車修理工で騒音が作曲の邪魔をします。それでも毎夜頑張っているため、学校で居眠りをして生徒たちに笑われます。そして夜眠ると、毎夜時代を遡りつつ美女と出会う夢ばかり見る、という展開。
僕は以前、悪い素材のころに字幕を付けたことがあります。だから今回、見直すべきポイントは明確でした。それは夢の中に現れるアラブの姫君(ジーナ・ロロブリジダ)の入浴シーンです。そもそもロロブリジダという女優さんは、「パンと恋と夢」を小学生の時に見て、その肉体美に圧倒されています(マセたガキでっしゃろ)。
ということで入浴シーンに注目し、少し巻き戻して二度見しました(ほんとうは巻き戻さないで10秒バックの連続だけどね)。はい、やはり豊満な肉体美でございます。これを見て平伏しない女性美愛好者はおらんでしょう。デジタル・リマスターのおかげで、スタンダード・サイズの画面(１：1.37のアカデミー基準)でフルショットなのですが、実に味わい深い。
1952年当時だと、このシーンを見るためだけに劇場へ駆けつけた映画ファンがたくさんいたと思われます。あ、映画ファンに限りませんよね、むしろ。ただしロロブリジダ様は、背中を堂々と見せてくださいますが、湯船(プールと言うべきか？)に入るときは別人のようです。
ロロブリジダをイタリアから呼んで撮影したようで、フランス映画もイタリアで稼いだ金を自国に持ち帰ることはマーシャル・プランで無理だったからでしょう。だから映画史に輝く“女性の魅力を初めて映画にしたイタリア映画”の伝統を、この映画で再現したのだと僕は思います。さすが名匠や。
つまり、1950年ごろのパリが舞台だけど、アルジェリア征服からフランス革命、そしてさらには石器時代へと、夢で時代を遡る設定です。終盤、律儀に時代を下るから、いささかダレるのではと思いましたが、なんのなんの。全編で90分を切る簡潔さでした。
映画館で、短い映画を見たらコスト・パフォーマンスが悪い気がしますが、テレビで見ているときは別ですね。そんな気持ちが映画評論家たちにもあるから、「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス湖畔通り23番地」が映画史上のベストワンに選ばれたんじゃないかな。でも小林正樹の「人間の條件」は選から漏れてるか(笑)。
フランス女優代表がマルティーヌ・キャロルで、たしかＢＢたちが席巻する以前の肉体派女優だと聞いていますが、今回はロロブリジダには敵いません。というか勝負する気もないみたい。そんな感想を持つ方は、ぜひロジェ・ヴァディム作品をデジタル・レストアする方向に声援を。ヴァディムの場合、男と女が出遭って…というオハナシばかりですからね。
そうそう「危険な関係」でマルセル・グリニヨンが担当したカメラの動きのことを書きましたが、この「夜ごとの美女」のアルマン・ティラールの撮影は、グリニヨンのようにカクカクしませんでした。実に流麗に斜め移動しています。これはカメラ・オペレーターの差なのか、それともＯＫを出した監督の責任なのか、僕は事実を指摘するにとどめます。
でもってクロードは、オペラを認められ、さらには大家の娘ともゴールインする。なんとも“幸せは身近にあった”というお約束どおりの物語でした。こんな夢物語ですから、この程度のファンタジーでいいと思います。変に“こんな夢を見た”なんて振りかぶられたら、見ていて居心地が悪いだけ。
とりあえずハリウッドを経験したクレールが、自国で自由に映画を作れるようになったという、そんな喜びがあふれているように思えます。そんな巨匠たちはヌーベルバーグという波にきれいに洗われてしまうのですけどね。それもまた歴史の一コマということです。とは言いつつ、僕はクレールとかマルセル・カルネあたりには無関心なのです。
とりあえず、デジタル・リマスターというものは、ここまで鮮明にフィルムを再現できるんだよ、という見本のような作品でした。芸術の国フランスの名誉にかけて、もっともっとデジタル・リマスターを行っていただきたいものです。
写真３はソ連公開時のポスターのようです。ロシア語とウクライナ語が併記されているそうな。2022年の悪夢として、記憶しておきます。
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