【バレエ】Kバレエ「シンデレラ」（配信）

「熊版のシンデレラ、それほど好みではないんだよね」と、お師匠さま。

言われてみれば、熊さんの他の作品を語る時よりも、お師匠さまのテンションはいつも低めだ。

「熊さん的には、自分が出ないことを前提に創った初めての作品だからそれなりに思い入れはあるようだけど、アシュトン版をベースにしたというよりは、その改訂版という印象」

コミカルな部分はアシュトン版よりもパワーアップしているけどね、とフォローも忘れない。（笑）

古典をパーツにまでいちど分解し、余分な枝葉を剪定、物語を整理再構築した熊さんの作品は、わかりやすく初心者も楽しめるというのが特長だが、「シンデレラ」は整理しきれていない気もする。

2幕と3幕を合体させた事実上2幕作品ではあるが、1幕が45分なのに対し２・3幕は計85分とバランスが悪い。配信なら自主休憩もできるが、劇場だとエコノミー症候群になる。（笑）

といって休憩をもう1本挟むと、盛り上がりに欠ける3幕は蛇足感が出てしまう。熊版はビントレー版と違ってラストの衣装は豪華だから、踊らないのなら着替える意味が無いとまでは言わないし、上手い人が配役されれば時間稼ぎの仙女の舞も苦にはならないが、てっきり仕上げのPDDがあると思っていたから、初見時は肩透かし感が強かった。古典の様式にとらわれないエンディングにするのなら、観る者の心をほっこりさせる鈴木版の方がクールだ。

1回目の観覧後、もう一度観ます？　とお師匠さまにたずねると、う〜んと小首を傾げる。では部分的にとか？　と重ねてたずねても、首の角度が増すばかり。（笑）

結局、小林さんのろうそくと、飯島さんのティーカップ、トランクを開けた時の成田さんの演技を観たが、飯島さんと成田さんは踊りや演技の確認が目的だった。

ろうそくの振付は直線的で急加速と急制動の繰り返しにもかかわらず、小林さんは微塵も遅れることなくぴたりぴたりと決めてくるから、配したくなる気持ちもわからなくはないが、彼女の踊りの持ち味はロシア式の大きく優雅な動きだから、もったいなさがどうしてもつきまとう。

戸田さんの仙女は良かったし、浅野さんの様子もなんとなく想像がつく。日高さんは逆にどんな具合だったか好奇心がわくが、もし配役されていたら、役作りも含めて小林さんがどうこなすかも気になる。

一方飯島さんは、表情や仕草には目を引くものがあるが、シンデレラと4人の妖精が揃って踊る場面になると技術の格下感が明瞭に出てしまう。演奏のテンポが増すとひとり音から遅れはじめ、手足の処理も甘く雑になる。

成田さんのシンデレラは、以前よりもいじめられっ子感が減っていた。どうも最初の印象と異なり、関西出身の明るい性格のようだから、地が出てきたということだろうか。（笑）

廉くんも観るたびに伸びているのがわかるが、加えて今回は成田さんとの組み合わせもしっくりきた。小野＆福岡、あるいはシェスタコワ＆シャドルーヒン夫妻の惚れ惚れとするパートナーシップとまではいかないが、2人の上品で優雅な踊りの質はマッチしているし、体格や体重の関係だろうか、廉くんは小林さんと組むよりも踊りやすそうだった。

組み合わせといえば、やはり小林さんと山本くんの主役をぜひまた観たいが、今回感じた踊りの質という点では、小林さんと杉野くんの組み合わせもボリショイチックで面白いかもしれない。（笑）

この週末朝は、そのボリショイの「白鳥」（ザハロワ＆ロジキン）と、Kの「ロミジュリ」（浅川＆宮尾）の再放送があった。

当代最高の白鳥姫は、ザハロワさんよりもロパートキナさんだが（異論は認めない。（笑））、見目や存在感はたしかに注目を集めるだけのことはある。浅川さんと宮尾くんの映像もよく残してくれたとそこは素直に感謝するが、遅沢さん、益子くん、キャシディさん、井上さん等々の名前を見ると、今のKの舞台は小粒感を否めない。

成田さんは、浅川さんやショーコさん、過去の主役ゲストの域にはまだ達していないし、細身で整った顔立ちの王子様然とした廉くんには、ついロイヤルのムンタギロフくん、ミハイロフスキーのレベデフくん、シェフチェンコのスハルコフくんという、同じカテゴリーの若手が脳裏に浮かんでしまい、彼らの圧倒的な力量と比べると、どうしても物足りなさばかり感じてしまう。

団員の平均レベルは他の国内バレエ団を凌駕するKバレエだが、誰もが納得する世界級のプリンシパルの確保と育成が、今も昔も変わらない課題だろう。