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2021年02月04日04:51

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様々な事実を積み上げるだけでも、歴史的な動きというものを描くことができる。ジェイ・ローチ監督「オール・ザ・ウェイ JFKを継いだ男」(2016)。

2016年のテレビ映画ですが、僕が同時代を生きてきたおかげで、この映画が描かなかった事実が大きくのしかかってくるのでした。いやはや「オースティン・パワーズ」など冗談の多い映画を作ってきたジェイ・ローチが、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(2015)以上に正面から歴史の転換期を描ききりました。

物語は、リンドン・B・ジョンソン(ブライアン・クランストン)がJFK暗殺により大統領となり、ワシントンに戻った場面から始まります。テキサスの病院内の風景が、当時の記録フィルムと同じアングル、同じ動き(に感じました)で映し出されるところが、JFK暗殺を体験した僕には痛烈でした。ザプルーダー・フィルムを使わないあたりも、僕には好みです。

ジョンソン大統領はケネディのやろうとしていた公民権問題を引き継ぎます。それに対して南部が地盤の民主党議員たちは、ジム・クロウ法を固持して骨抜きにしようとする。そのあたりのせめぎあいから、キング師(アンソニー・マッキー)が代表する黒人運動家たちの主張など、伝え聞いた内容どおりの展開が繰り広げられます。

つまり、事実というものを積み重ねただけで何ら新しい内容はないと言えるのですが、実際史実以上の新発見などは望めないわけですから、やむを得ないわけです。それでも僕は知っています。ジョンソンを追い落として大統領候補を目指したボビー・ケネディが、ロサンゼルスのアンバサダーホテル(僕が初のアメリカ旅行で滞在したホテルです)で暗殺され、キング師もまた凶弾に倒れたことを。

さらに、トラック運転手組合の代表がジョンソン大統領の応援をするわけですが、その彼も“行方不明”となってしまったわけです。あるいはFBIのフーバー長官指揮のもとで、各要人たちの盗聴が行われていたという描写は、その後のウォーターゲート事件があったから、当然のように思えます。それらをサラリと描いてしまうところが、この映画のポイントだと僕は思いました。

つまり、それらの策謀が1本の糸でつながっているなどというのではなく、たまたま多方向の意図が折り重なったのでしょうが、大統領暗殺という大事件を引き起こしたアメリカの世相というものが、実に見事に見通せたと思うわけです。とりわけ昨秋、前大統領とバイデン大統領の熾烈な選挙を体験したわけです。そんなときに、この映画はとてもタイムリーでした。

制作したのはアンブリン・テレビジョンだそうで、製作者としてスピルバーグも名前を連ねています。スピルバーグが「オースティン・パワーズ」に実名で出ていたことも合わせて考えると、やはりLBJ在任中のアメリカ政治については、深く考えて直す必要があると思いました。リンカーン大統領が奴隷解放を考えるときに南部の意向を加味して逡巡していたように、LBJ(そしてその周囲の政治家たち)も大いに悩んだことでしょう。

野坂昭如風に言えば“みなな悩んで年を取った”わけで、その時代を生きた人間としては、知らぬ顔をしてスルーするわけには行かない、それでいて大した出来栄えでもないテレビ映画なのでした。ベストンに入れるとかではありませんが、きちんと向き合う必要のある映画だと僕は思います。
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