ぼくの前をなかなか素敵な後姿の女性が歩いていた。薄いピンクのワンピースを身に纏い、ハイヒールを履いてお尻をフリフリしながら歩いて行く。背後から見ている光景なので、年齢の程は定かではないが、恐らくは30歳ちょい前ぐらいの方なんだろうな、と推定した。
そんなぼくの横から、突然若い男が前方へと躍り出てきて、その彼女に声を掛けるのだった。
<あ、ナンパだな> とぼくは思った。
早足になった彼女を引き止めるように何やら必死で口説き始める男の姿。
「ち、ちょっと、すいません。決して怪しい者ではありません」
ニヤケ顔のナンパ野郎からは常套句が口をついて出ていた。もっと気の利いた言葉はないものだろうか? そんなことを考えながらぼくは二人の様子にただ見入るしかなかった。
そのうち、彼女はナンパ男を振り切るようにピンクのワンピースをひらひら揺らしながら足早に駆けて行った。
バツ悪そうに、しばらくそこに立ち止まったまま辺りを見回すナンパ男。
・・・あ、アホやん。そんなバカ丸出しの口説き文句では、今時ナンパは務まらんやろう。せめて、「ご想像どおりの怪しい者です。でも多目的トイレなんかには誘ったりしませんので、どうかご安心ください」ぐらいの台詞が言えないものかな? と一人憤慨してしまうぼくだった。 おわり
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