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2020年01月03日04:34

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“筋”が通らなくなっている今、筋を通すヤクザの映画は痛切に響く。川島透監督「竜二」(1983)を東映チャンネルで初見。

かつて東映やくざ映画は、任侠という特殊な世界を背景にしながら、1970年前後の日本という社会で大きな共感を得ていました。戦争を知らない僕たちのような世代が古い習慣やならわしに異を唱えていたのに、やくざ映画にはひきこまれたわけです。義理と人情という考え方に共感したのではなく、そういう常識で窮屈に縛られているあたりに共感したのでした。

この「竜二」は、東映セントラルフィルムの制作です。主役の竜二を演じた金子正次が脚本を書き(ペンネームは鈴木明夫)、1983年10月29日に公開されましたが、8日後の11月6日に金子正次は、胃癌性腹膜炎で世を去っています。そんな話題も知っていたけれど、僕は昨日までこの作品を見ていませんでした。マイミクさんが“映画を見るきっかけになった作品”と語り、ちょうどその話を聞いた前後に東映チャンネルで放送していたので録画しました。以前にも録画してDVD−Rにしていましたが、見るのは今回が初めて。

よく出来た作品だと思います。ホテルの一室で竜二(金子正次)が目を覚ますところから始まり。女が服を着ている。“お前は誰だ”と竜二が聞くと、“夕べ店で口説いたくせに”と返される。竜二が金を渡そうとすると、女は“そんなもの要らない”と受け取らず、買い与えたらしいぬいぐるみの袋を手にして“これ、もらっとくわ”と言います。

この女が“あんた、山東会の竜二さんでしょ”と言うなど、てきばきと状況を語るところがなかなかでした。簡潔な語り口で、しかも必要な情報を饒舌にならずに語る。この手法は今でも生きています。当時受けたのも当然でしょう。今まで見なかった僕が“勉強不足”でした。

しかし、竜二が“堅気になる”と宣言して、すんなりと酒類販売業者の職を得て、別れていた妻子と暮らすという展開は、そう会ってほしいという気持ちとは別に、“今では無理だろうな”と感じてしまいました。これはやはり、1983年に見なかった僕の責任です。あのころは、これが可能だったのかも。

僕は知っています。やくざが“反社会勢力”として追い詰められ、銀行に口座を持てないから家を借りて住むことすらできないことを。つまり、かつては任侠の世界と手を組んでいた政治や経済が、彼らを必要としなくなって切り捨てにかかったということです。だからその後やくざ組織が、組員から資金を吸い上げる形しか生き延びるすべを持たず、だから堅気になるにはとにかく金が要る。今ではそうだという話です。

かつては、そうではなかった。義理と人情で縛られた世界ではあるけれど、その筋を外さずにしのぎを得ることができた。むしろ筋を外した人間は、その世界からも排除されていたわけです。そう、僕は知っています。阪神淡路大震災のとき、時の政府が自衛隊の救援活動出動にとまどっていたのを見て、山口組の人たちが蓄えていた飲料水や食料を、神戸の被災者たちに提供したことを。

にも関わらず、1992年から“指定暴力団”に対する締め付けがきつくなります。すでに「博徒解散式」で描かれたように、日本社会のシステムが弱者から収奪する方向へとシフトし、やくざも“反社会勢力”として駆逐されようとしていたわけです。そんな時代ですから、「竜二」は日本映画としても“仇花”だったように思えます。

竜二が収監されかけると、妻まり子は縁を切っていた実父に頼みこみ、娘と自分が実家に戻ることを条件に示談金を調達します。やがて堅気になると宣言した竜二は妻の実家を訪れ、父親や兄にあいさつする。その真面目な態度に、親族一同“いい人じゃないの”と安どする。これが映画の半ばでした。しかし、そのまま“めでたしめでたし”にはならない。そのやくざ映画としての“新しさ”がなかなかでした。

そこからラストまで、とにかく饒舌にならず、淡々と描きだす生活感がみごと。かつての深作映画だと、“あなた、何かしようとしているのね”と女が言う、そんな歯の浮くようなセリフがありました。この「竜二」では、買い物の行列に並んでいる妻と娘を見かけるだけ。それだけで竜二は(そして観客も)悟ってしまいます。

この映画が公開されている中で他界した金子正次という俳優さんは、どんな気持ちだったでしょうかねぇ。僕より2歳も年下ですから、現在存命で何も不思議はないはず。実に惜しいと思います。←と、今ごろ言っても始まらないけど。とりあえず遅ればせながらですが、こういう映画を見ることができるから、長生きはするものです。やはり、あと100年は生きていたいな。

写真2は、竜二の部下のチンピラ(北公次)がバーゲンで上着を買う場面。竜二の弟分(佐藤金造)から“やくざがバーゲンで物を買うな”と叱られます。弟分も同じことをして竜二から叱られたらしい。写真3は、そのチンピラが、堅気になった竜二を訪ねた場面。いっぱしの顔となっています。
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