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2019年08月31日05:16

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これが60年代のハリウッド映画なので、ニューシネマが台頭して当然です。ジョセフ・L・マンキウィッツ監督「三人の女性への招待状」(1967)。

このころのユナイト映画の宣伝を、僕は鮮明に記憶しています。いわく“世界の巨匠たちがユナイトに集結した”。たしかにビリー・ワイルダーやシドニー・ルメット、トニー・リチャードソンなど、欧米のビッグネームによる新作がずらりと並んでいました。ところが、ユナイトの稼ぎ頭は「007」シリーズで、待てど暮らせど巨匠たちの作品が公開されません。

東京はどうだったのか知りませんが、大阪では正月映画前の“空き”期間に、松竹座で1週替りみたいに公開されたのを覚えています。ルメットの「グループ」もその1本。たまたま学生映画友の会の事務所が松竹座の中にあったから、そこに顔を出すことでこの作品も見ることができました。←だからVHSでも録画して保存していたわけですが、再見するのは今回が公開以来初です。

本国でも、撮影したのは1965年の秋から66年の2月までとimdbにありました。チネチッタとベネチアで撮影しているから、まだイタリアで稼いだ金はイタリアで遣うというルールが生きていたのでしょうか。レックス・ハリスン、マギー・スミスという顔ぶれですから、欧州在住者がメインです。←キャプシーヌもパリに住んでいたと思う。

ジョセフ・L・マンキウィッツ監督は、脚本家でもあるからこういう込み入った作劇が得意ということでしょうが、古典劇にヒントを得て遺産相続劇を展開されても、芝居に無関心の僕には全く意味がありません。むしろ古典劇を下敷きにするという窮屈さが我慢ならず、今なら“30分ルール”適用だったでしょう。学生時代にそのルールを用いてたら、大半のハリウッド映画が対象となっていたはず。

要するに大富豪のフォックス氏(レックス・ハリスン)が俳優のマクフライ(クリフ・ロバートソン)を秘書に雇い、心臓病でひん死だという手紙を3人の女性に送って呼び寄せる、という展開です。で、3人の誰に遺産を渡すかを決める話なのですが、これがぐだぐだとセリフばかりで楽しくない。さらに3人の女性が、スーザン・ヘイワード、キャプシーヌ、イーディ・アダムスで、レックス・ハリスンの年齢に合わせているから、トウがたってます。いちばん若いのがマギー・スミスでっせ。学生だった僕には老人ホーム映画ですわ。

そんな訳で、せっかくの巨匠作品で2時間13分の大作も、とことん大ハズレでした。スタジオ独特の照明に新鮮味がなく、50年代の黄金期と何ら変わりない画面作りです(撮影はジャンニ・ディ・ベナンツォですが、撮影途中に45歳の若さで亡くなりオペレーターが撮影したらしい)。例によって映画評論家を自認する兄ちゃんが解説に顔を出し、“どんでん返しの連続”みたいに宣伝していますが、こっちは卓袱台をひっくり返したるわ。

アホらしいからネタバレで貶すと、キャプシーヌ扮する王女が手土産に“砂金による砂時計”を持参するのですが、砂金とはいえあれだけの量があると比重が20近いわけですよ。とても軽々と持てるはずがない。それをこちらの好意で“映画の嘘”と納得してやっているのに“実はニセモノでした”というのは、本来やってはいけない手だと僕は考えます。

それと下手なミステリーは、仕掛けを隠すためにミスリードするわけです。この映画の場合は説明不足で登場人物たちのキャラクターが生きず、さらに殺人事件に緊迫感がないため、な〜んも面白ろない。こんな映画を“イタリアに使える金があるから”と企画を通すこと自体が本末転倒なので、ギャラをもらった俳優やスタッフだけが喜んだことでしょう。配給させられた社員たちは苦しんだわけで、その結果が正月映画前の捨て番ですわ。

とはいえシドニー・ルメットの「グループ」は2時間半を楽しめたから、ジョセフ・L・マンキウィッツの“語り口”に冴えがなかっただけ、なのかもね。かくて老兵は消え、アメリカン・ニューシネマが僕にとっては大きな存在になるのでした。
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