ファッションに疎い人間ですが、いろいろファッション関係のドキュメンタリーがあると見てしまいます。それは“美しいもの”を見たい、という欲求があるから。品のいい映像を見たいという期待を、一流のファッション関係をとらえた作品なら裏切らないと思うから。
そういう色気を忘れなかったおかげでビル・カニンガムという人物を知ることができたし、アイリス・アプフェルというおばあさんの生きざまに感心したりしました。カニンガムは亡くなり、アプフェルも100歳近いからこの映画には登場しません。でもディオールという名前に魅かれてこのドキュメンタリーを見ました。
クリスチャン・ディオールは1957年に52歳の若さで亡くなっていますから、それから60年以上もディオール・ブランドを守り続けた人たちがいたわけですね。今回は、ディオールの中心人物に抜擢されたラフ・シモンズが初めてのパリ・コレクションを開催するというドキュメンタリーでした。
ラフ・シモンズがオートクチュール未経験であるとか、コレクションまで2か月しかないとか、そのあたりの事情については全く分かりません。だからそれによるサスペンスは僕には無縁でした。ただ、大仕事に対する緊張感は伝わります。
驚いたのは、時間がないのに主要スタッフがニューヨークの顧客の依頼で出張してしまう、という事実。ラフ・シモンズは“ありえない”と怒りますが、スタッフは“年間5000万円払ってくれるお得意様の要望には応えないと”と平然としています。
あるいは会場を高価な蘭の花で埋め尽くすという演出にもびっくり。この会場を見るだけでもこのドキュメンタリーの価値があるのではないでしょうか。コレクションを見に来たジェニファー・ローレンスの隣にハーヴェイ・ワインスタインが座っているとか、シャロン・ストーンやマリオン・コティアールが姿を見せているとかがポイントではなく、コレクションの盛り上がりが感動的なのでした。
僕のようなファッションに興味のないトーシローが感動するわけで、僕はこれによって「ボヘミアン・ラプソディー」のラストのライブ映像に夢中になった人たちの気持ちが分かった気がしました。つまり、今回の僕の感動は、その程度の場違いな感動かもしれないけれど、それはそれで感動なのだということです。
しかし同時に、こんなファッションに年間5000万円も使える人間が存在するわけで、その事実については、やはり“責任者、出てこい!”と怒鳴りたくなります。そういう意味で、こんなことを許す社会を許してしまった僕自身が、鏡を見て反省するべきですが、それは棚に上げて、軽く感動を楽しむことにします。
そういえば川本三郎さんの奥様恵子さんが書かれたハリウッドの衣装に関する本には、戦後ハリウッド映画が、パリのオートクチュールを支えた部分が描かれていました。マレーネ・ディートリッヒも、ディオールに毎年大金を払っていたのでしょうね。
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