試合が終わって、両校がホームベースを挟んで挨拶をする。勝利したチームの校歌が流れ、アルプススタンドへ挨拶に行く。
試合と試合の間は35分。この間に試合を終えたチームの片づけが行われ、簡単のグランド整備の後に次の両チームがノックを行い、そして名物ともなった阪神園芸の人達の水まきが行われる。
そこで必ず流れるのが嵐の「夏疾風」だ。熱闘甲子園のテーマとして映像には嵐のメンバーが甲子園で謳う姿とともに第1回大会の始球式から王さんがタオルで頭を拭く姿や江川さん、荒木さん、桑田さん、松井さんなどの往年のスターにダルビッシュやマー君、斉藤などの決勝戦を彩った投手陣、そして昨年の名場面などが散りばめられている。
そのなかで特に目を引くのが「逆転サヨナラ〜〜」というABC朝日放送のアナウンサーの絶叫とともに流れる東邦のサヨナラ勝ちの場面。崩れ落ちる光星の投手、涙が止まらない捕手の顔がアップで映る。一つの試合としては2分間のこの映像のなかで一番時間を割いている。
なぜ朝日はこの場面を選んだのだろうか。光星側のアルプススタンド以外のすべての甲子園から敵視され、160度を見渡しても東邦を応援するタオルが廻り続けた甲子園。
清宮の出現から甲子園の入場が困難になり、始発で出かけても観戦できないという状況が相次いだ。それで今年からネット裏をすべて指定席として前売り完売した。
あの東邦の試合からも応援の状況は変わった。
今年で100回目の高校野球。ボクが甲子園を見始めた時のように応援団が数百人しか来ることができない東北北海道や、九州沖縄などの遠隔地の出場校を応援するという本来の判官贔屓とは違って、どちらの関係者でもない観客が明らかにヒール役を作り上げてそれをやっつけることで憂さを晴らすような応援。今の世の中がどれだけ殺伐とし心が貧しくなっているかを感じる。
今年もそれは起こった。意図的にそれをやりに来ていると思われる人もいた。
高校野球にはいつもスターがいる。しかし、どんなひどい負け方をしても敗者を称えるというのが高校野球の基本だ。なぜなら彼らはプロではなくただの高校生であり、その試合は部活動なのだから。
負けたチームが甲子園を去るときに球場から起こる拍手。それをかき消すようにちょうどその頃に流れる嵐の歌声とABCアナの絶叫。
100回目の夏と銘打たれた今年の大会、時代は変わりつつある。特に今年の夏は暑く、こんな環境で野球をやること自体を疑問視する声も聞かれた。
そのなかで決勝に進んだ大阪桐蔭と金足農。
全国のスカウト網から発掘された有能な選手を集めて複数のエース級の投手を持ち打撃に至っては既にプロ級と称される選手を擁する大阪桐蔭。しかも、それだけではなく精神的な強さや試合に対する準備も怠らず、相手を尊重しながら最後まで全力で戦う。
それに対して、野球は9人、エースは一人、走者が出たら送りバント、3塁に進めばスクイズという今の時代に逆行するような昭和の高校野球を再現させた金足農。
今年の決勝戦はこの対照的な両チームの対戦となり、当然多くの人は金足農の応援にまわった。腕が折れるまで投げる。負けるくらいならマウンドで死んでもいいという姿が日本人は好きだ。
だから高野連会長で閉会式の挨拶でこれこそが高校野球の理想だとついこぼしたのかもしれない。当然物議をかもした。
今年の高校野球は好ゲームが多かった。高校野球が注目されることはいいことだとは思うがその熱狂振りに違和感を覚えるのはボクだけだろうか。
高校野球は当たり前だが高校生による大会だ。プロ級もいればへたくそもいる。それはクラスに東大にも入学できそうな子もいれば勉強が苦手な子もいるのと同じだ。
だから、本当の高校野球ファンは勝者も敗者もプロ級もへたっぴも暖かく見守ってあげるべきだ。それが大人の高校野球ファンだと思う。
逆転さよなら〜というアナウンサーの絶叫が毎試合ごとに甲子園に流れるあの東邦対八戸学院光星の試合から始まった異様な光景はもう見たくない。ヒール役でありながら堂々と戦い優勝に輝いた大阪桐蔭はこの100回大会で大人の戦いを見せた。
101回目の夏は見ている大人たちが本当の大人になるような大会になってほしいと思う。
金足農業、準優勝おめでとう。そして大阪桐蔭、優勝、本当におめでとう。
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