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2018年04月30日07:02

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De Pont 美術館にて



もう二週間ほど前のことになるけれどオランダ ティルブルグにある De Pont Museum という美術館に行った。 そこはもともと大きな繊維工場だったものを20年ほど前に現代美術館に転用したものだ。 もともとティルブルグは繊維産業が盛んであったものが60年代以降第三世界に産業が移動して衰退していった過程は日本のものと同じで、現代美術の愛好家でありコレクターであった工場の持ち主、De Pont 家の収蔵物を基にしてこの美術館が誕生している。 この日は常設展示物に加えオランダの女性写真家 Rineke Dijkstra の回顧展が開かれておりその過去から現在に至る作品展に接し深く感動した。 時期限定的にこの作品展の様子は次のサイトから窺い知ることができる。

https://www.google.nl/search?q=rineke+dijkstra+de+pont&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ved=0ahUKEwij3JbMht_aAhVRJlAKHZIFCRMQsAQIYQ&biw=1665&bih=927

彼女の作品の圧倒的な魅力はその等身大ほどの人物ポートレートだ。 ほぼ正面を見据え観る我々に対峙する被写体は若者であったり子供であったりするけれどほぼ中年以上の男性は登場しない。 我々の眼はそのポートレートの隅々まで這いまわり中心の人物とは関係のない細部が人物の危い感情や存在の脆弱さを引き出すものとなっていることに気づくだろう。 写真家の意図してかせざるかによるそれぞれのポーズは彼らの存在を示す表情となる。 例えばポーランドやウクライナの海岸で撮られた若者・こどもたちの肖像は表情がなければそのポーズがそれを補ってそれ以上の効果を示しており、何人ものポートレートを並べてみることで彼らの住む環境までも浮かび上がってくるようだ。 雨の降りそうな薄暗い海岸に立つかれらの単身、群像のシリーズはそれまでに見てきたリチャード・アヴェドンやダイアン・アーバスと同様に感動を呼ぶものではあるけれどそこにはこの写真家の女性性が顕著に現れているようにも感じるのだ。 現に男性は現れても屈強な男の筋肉が現れたところで男性は消えていくようだ。 例えばフランスの外人部隊に入る若者とかれが訓練を経て入隊したポートレートの違いは明らかで、同様にイスラエルの若い女性が徴兵され制服の兵士となる肖像に対比され、それぞれその体験の前後でどのような変化があったか一目瞭然となる。 スペインの闘牛士たちがアリーナでの格闘の後血の付いた姿でカメラの前に登場するのだがどれも美少年の面影を残した姿であり生臭い男とというものは登場しない。 20年近く三姉妹を追ったシリーズがある。 少女から成熟した女性になるまでの三人のプロセスには彼女たちの経てきた経験がそこに残されていて我々にそれを読み取るよう誘うようでもある。 赤子を分娩したばかりの女性の裸像があってまだ出血がとまらずだから裸像とならない母子像のそばには帝王切開で子供を得た母親の傷跡を見せて立つ像もある。 一概にここでは老人、筋肉質の男性が排除されていることに気付くのだがそれがこの女性作家の選択なのだろう。 そしてそれが繊細で、存在の脆弱さ、危うさを絶対的な存在感として表現する素になっていることは否定できないだろうと思う。

Wikipedia; Rineke Dijkstra

https://en.wikipedia.org/wiki/Rineke_Dijkstra

 

その以前から新しいカメラに徐々に慣れてきて若い時には撮れなかった人物ポートレートを人生の秋から冬にかけての新しい挑戦と心がけていた自分には Rineke Dijkstra の作品に接して大きな嬉しい刺激を受けた。 特に大きさ、サイズと解像力の量が質となるということを実感した。 

もう一つ嬉しい経験をしたことがある。 1月の終わりに瀬戸内海の直島の美術館めぐりをしてそこでジェームズ・タレルの作品を幾つか観た。 そこでの体験は我々の視覚というものを考えさせられる新鮮な体験だった。 光と色彩を知覚する我々の目の不思議とそれを体験させてくれる装置に入る行動は一種刺激を求めてお化け屋敷に入ることに重なるようでもあるけれど結果は儚い幻を見るようで静かな感動・微細な刺激の連なりは経験するけれど一瞬の驚きはないお化け屋敷とは正反対の種類の体験である。 直島の南寺で経験したことの小規模なものが作品としてこの美術館にあって久しぶりに微細な光の中に変化する色彩の妙を再体験した。 この後息子からハーグの近くにあって自宅から自転車でも行ける距離にある美術館でタレルの作品が観られると知らされた。 そのうち機会があればそこを訪れるつもりである。

ウィキペディア; ジェームズ・タレルの項

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%83%AC%E3%83%AB
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