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2017年10月07日23:15

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長沢芦雪

和歌山県串本・無量寺の襖絵空間の再現が目玉です。
青畳のかおりもすがすがしい。


京のエンターテイナー
長沢芦雪展
@愛知県美術館

フォト


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11月19日まで。
会期中展示替えがあります。
すべての作品が見られるのは10月24日〜11月5日
http://www.chunichi.co.jp/event/rosetsu/


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本展監修者の山下先生のお話をききました。

エンタテイナー・長沢芦雪の真骨頂
講師:山下裕二(明治学院大学教授)  
(美術ライターの佐藤晃子さんが映像助手をつとめられていました)


「職業が説明しにくい山下です」
司会のかたによりますと”江戸絵画を研究されている”
と紹介したら ”山下先生のご専門は室町水墨画だ”とおしかりを受けたそうで。
たしかに最近のご活動でも

・超絶技巧の近代工芸
・国宝展
・ドラえもん展

と多種多様にかかわっていらっしゃいますからね。
以下お話の流れのメモを。
(・はスクリーンに映された画像)
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今回の展覧会は4年前に丸山応挙展をやったとき、
次は芦雪を、と提案させていただいたのがはじまりです。
応挙のときは大乗寺(兵庫県)の襖絵の再現展示が目玉でした。
同様に今回は無量寺の再現展示が目玉です。


【観光案内】

その無量寺の観光案内をしておきましょうか。
・トラの襖絵の前の山下先生

これは6〜7年前になりますね。
いま本物の襖は通常とりはずして収蔵庫に入っていて レプリカが展示されています。

・本堂の外観
ソテツがあったりしていかにも和歌山らしい。
・寺の入り口
・応挙芦雪館
・収蔵庫
収蔵庫の襖はお願いすれば見せていただけるんですよね?
(会場にご住職がいらっしゃっていました)
雨でなければ、ああそうですか。
ですから、現地に行くとまず本堂でレプリカをみて、
それから 収蔵庫で本物に対面すると。
ところが本展では会場でそのまま実物を見られるのが目玉というわけです。

現地にいくには、東京からなら紀伊半島の東側を通るのが近そうですが
新大阪までいってスーパーくろしおでいくのが速いです。
・串本駅
・タクシー乗り場
トルコ友好の町、ってかいてあるでしょう。
明治時代に串本沖で遭難した トルコ船を救助したからですね。

・海中公園
これは辻惟雄先生です。魚にエサをやるのに夢中になっちゃって。
1970年に『奇想の系譜』を上梓された江戸絵画ブームの火付け役ですね。
僕は20歳でお会いしたのでもう40年になります。

・はしくい岩
・大島

このあたりは絶景です。
芦雪も間違いなくこの風景を見ている。
海金剛っていいまして、芦雪の山水画にはここでの体験があったとわかります。

・プライスさんと無量寺の龍襖前で2ショット こちらは若冲コレクターで有名なプライスさん。
1週間前にも東京にいらっしゃいまして、
辻惟雄先生との2ショットを たくさん撮らせていただきました。
いま企画しているものがあるので、2年後にその映像はご披露します。

・プライスさんとエツコ夫人@那智の滝
・「ここの海抜は4mです」という看板

無量寺は1707年に大津波で流されていまして、80年後に再建されたお寺です。
再建のときには襖をかきましょう、と応挙がいっていたのですが 売れっ子で忙しい。
それで応挙は京都で1室分だけ描いて、それをもっていった
弟子の芦雪がのこりを描いた。
今も津波は心配な土地柄です。

では観光案内はこれくらいにして作品解説に入ります。
【無量寺の襖絵】

・大乗寺の襖絵(応挙)

これは地が金のせいもあるんですが、畳に反射した光が襖をてらしているんですね。
ですから今回の芦雪の再現展示も下から照明をあてました。
配置は仏間にむかって左にトラ、右に龍。
トラの裏に直角にまがる鶏、龍の裏に直角にまがって唐子。

・虎図襖

ネコっぽいですよね。
この時代、生きた虎は日本にいなかった。
象とかラクダは入っていたんですが。
応挙は虎の毛皮は写生していますけれど。
だから芦雪は虎を見てかいたわけではない。
この前足もねえ、そろえてるんでしょうか?片足でもう一本は隠れてるのか?
まあ写生ではないですがとびかかる様子はよくわかる。

・薔薇に鶏 猫図襖

虎の裏はニワトリ。
そして3匹のネコ。
芦雪のネコは性格が悪そうです。耳がとがってるし。
右端のこの子はちょっとかわいいかな。子猫ですね。
でも耳はとがってて目はつりあがってる。
水中の魚を狙ってますよね。ですから裏の虎、これは 魚からみたこのネコだと。
この解釈は15年前の榊原悟さんの説で私も同意見ですね。

このニワトリの尾をみると若冲を思い出すでしょう?
芦雪は確実に若冲のニワトリを見てると思う。
もうひとつ今回若冲っぽいのがあって、それは鶴です。
鶴が何羽かかたまってる、あれは動植綵絵だ!と思いましたね。

・龍図襖
龍の方も師匠の応挙と違う。
曾我蕭白(ボストン美術館)に感化されてる感じですね。
この龍で面白いのはヒゲがくるん、と丸まっているところ。
平筆の穂先が まわっているんでしょうね。
こんなふうに芦雪の絵はライブ感があります。
実際に目の前で描いてみせるのが大好きだったようで 仕上げてドヤ顔をするのが目に見えるようです。
酒を飲みながら絶好調〜という感じですね。
どうしてそんな、というと師匠の応挙の目が届かなかったからですよ。
外国に来たみたいなものですからね。
30歳くらいか、半年で描きまくっている。

・唐子遊図襖

龍の裏は唐子(からこ)。
残念ながらかなり薄れていますが、それでも絵を描いていたり手が墨で真っ黒の子とか 寺子屋風景のようです。
実はこの絵にも表裏の仕掛けがあります。
曲がるあたりのここ、花瓶の取っ手が「龍」でしょう?
展示がガラス越しでないのでよくわかるはずです。ぜひ確認してください。
知らないひとが多いと思うから誰か連れてきて自慢できますよ。

左端は子供たちが天にのぼっていくように描かれています。
芦雪というひとは自分の子供を幼くして亡くしていますので
そんなことからなにか思いがこもっているんでしょうか。


【時系列に沿った作品解説】

・長沢芦雪像
芦雪の死後30年の法事のために芦鳳が描きました。
ヒゲが濃いですね。
表具のぐるりに一門の画家がそれぞれ絵を描いて 印を押している。


今回学術的に意味が大きいのは応挙入門前の4点です。
・群鶴図
・蛇図
・関羽図
・梅に鴉図

凡庸で、「于緝 (うしゅう)」という落款がなければ芦雪の作品とは 思えないような作品が4つもそろっているのが珍しい。

・若竹に蛙図 これは応挙入門後です。
いいでしょう。大好きですね。

そして入門後のいつ書いたか年齢もわかるのが

・東山名所図屏風

芦雪25歳のときの作品です。
ただしこの作品の印(魚印)は右肩が欠けていて、 この印は40代で使っていたものだし 色指定の書き込みがあったりするんですね。
ですから25歳のときには色をさしていなくて、 後年色をさして落款をいれたのかもしれません。
【応挙との比較】

「孔雀」と「楚蓮香」は応挙作品と芦雪作品が並べて展示されています。

応挙は孔雀については完璧な作品を残しています。
特に首。
むこうから3次元的にせり出している。 これは大乗寺の墨作品でも同じです。
一方芦雪の孔雀。 首のせり出しを描こうとしていますが応挙と比べると今ひとつ。

次、楚蓮香。
いい香りで蝶がよってくるという美人画です。
応挙ははたんのないお手本、ちゃんとした美人です。
芦雪の楚蓮香はかなりエロい。釣り目だし、後れ毛がある。
基本的には先生のスタイルだが色っぽく表現する人なんですね。


【どこにもない個性】

・虎図(オオタファインアーツ)

応挙とも違う繊細な毛描きで、芦雪作品でも特殊なものです。
それと落款の書体が新字の「芦」。
芦雪はたいてい旧字体で名前を書くんですが、今回の展覧会では 「沢」も「芦」も新字体にしました。
応挙の「応」も新字ですし。

・花鳥図

薔薇につつじ、金鶏、雀、四十雀。
若冲っぽいですね。感化されてるかな。
でも岩の表現は芦雪らしい。
速い筆で勢いがあって、応挙と違う。
芦雪の「岩」は特徴的で、5cm四方の断片をみたらそれとわかります。


・躑躅群雀図

雀はかわいい。真正面のこれとか。
だいたい雀って水浴びするんですか? 想像上の雀かもしれない。
平安芦雪、と書いてるでしょう。
都の絵師だというのがブランドなんですね。
地方の有力者の注文を数多く受けていたようで、通信販売というか。
島根県あたりでも一門の作品がある。

・七福神図

楽しそうな七福神ですね。
恵比寿さんの釣ったものか、お刺身が新鮮そうな色で。 タコもいるし。


★岩上猿・唐子遊図屏風

左隻は唐子と犬。
問題は右隻。 この岩。
抽象画かと思うような妙に乱雑な塗り方です。
よく見ると人物の絵が塗りこめられている。


★牛図

掛け軸の画面からはみださんばかりに真っ黒な牛が描いてある。
掛け軸は上から広げて行くでしょう。
するとはじめは何かわからない。
ひろげていって初めて牛とわかる。
まさしくエンタテイナーの真骨頂です。
ちなみにこの作品では牛の瞳がブルー、 掛け軸の軸先もブルー。
落款は金色。面白い。
魚印が欠けていないから40歳前の作品ですね。
(芦雪の魚印についてのエピソードは有名なので省略)


・絵変わり図屏風

左から2枚目が面白い。
画面下半分は真っ黒、上半分に転々と帆掛け舟。
下の黒は何でしょう?そう、クジラの背中ですね。


★群猿図屏風

左隻には猿4匹。問題は右隻です。
これも屏風をひらいていく場面を 想定している。
最初は抽象画のような断崖、最後までひらくと頂上に猿が 描いてあるとわかる。


掛け軸をひらく
屏風をひらく
襖のおもてうら

そうしたものに趣向を凝らすのが芦雪の真骨頂です。


・寒山拾得

酔っ払ってるなこの芦雪。
この平安芦雪って字、どうですか。
畳の目がうつってるからジカにおいてびや〜っと描いたんでしょうね。
左目なんか墨がたれたからタレ目にした。


【犬】

・狗児図
・薔薇蝶狗子図

芦雪のワンコはかわいいですね。
でもこの子は?耳どこ?カワウソか?
後ろ向きで片足をタランとたらしているポーズがよく出てきます。
虎にもこのポーズのものがある。
ネコもかわいく描けないのかなーと常々思っています。


【いろいろな技法】

芦雪には背景を暗くして粘り気のある画材で描いた作品群が あります。
成分分析したらいいと思いますね。

・降雪狗児図(逸翁美術館)
・鶏図


・なめくじ図
(なめくじが歩いたあとをひとふでがきで)
こういう発想しますかねー
これもエンタテーメント性を発揮した 作品ですね。


指で描いた作品もあります。

・汝陽看麹車図
・牧童吹笛図

これも人の見ている前で描いたのかな。
酔っていてもデッサンが確かですね。
アルコール度数が低いのか。
乱暴なようで形は確か。


★富士越鶴図

さて、富士山といえば北斎とか山のように作品がありますが
芦雪ほどとんがらせた画家はいないですね。
ここまで誇張しますかね。
しかも鶴の描き方が高度です。
むこうからこちらまでずらっと並んだ鶴の羽が 白く抜けていますが、それでいて山の稜線が一筆で描いてある。
マスキングしてるのか?謎です。
そもそも鶴の描線も勢いがあるし。


・美人図

地方の有力者の娘を親の注文で描いたのでしょうか。
ゲタの鼻緒のケバだちまで丁寧ですね。
神経が行き届いた作品です。


★大原女図

芦雪の女性のなかで一番エロい顔をしてるのがこれ。
流し目で後れ毛がたまんないですね。
青地に白く、着物の模様も細かい。
技量を見せるような繊細な筆遣いです。

・幽霊(11月5日から展示)
応挙の幽霊は美人ですが、芦雪のはうらみがましい。


【晩年の作品】

芦雪は晩年に濃密な空気感の作品を残しています。

・竹林蝙蝠図
・朧月図
・雨中釣燈籠図

これは応挙もやっていないことです。
ぼかし効果で叙情的で。
晩年はこのようにインパクトのあるものと同時に叙情的な作品を描いた。


★白象黒牛図屏風(プライスコレクション)

白い象には黒い鴉、黒い牛には白い犬。
コントラストをみせると同時に これも屏風を開くときの驚きを想定していますね。
若冲の「クジラ象図」を連想させますがどちらが早いかは微妙ですね。


★山姥図

厳島神社から借りてきました。
有力者が9人で注文して寄進したものです。
山姥の帯をみてください。「花」と「月」という字がわかりますか?
「雪月花」ですね。では「雪」はどこにあるか?
「芦雪」です。


そして最後はこれですね。

★方寸五百羅漢図

3.1cm四方に五百羅漢が描かれている。
あるらしい、という話をしていたら本当に出てきた。
ほとんど見えないから会場では拡大図も展示しています。


芦雪は一生応挙の門下から離れませんでした。
何回も破門されているという話もありましたがそんなことはありません。
その制約があるからこそここまでできたのではないでしょうか。

46歳で没しています。
性格が悪かったから毒殺されたという説もありますが
これを契機に皆さんも芦雪を楽しんでください。


*********

山下先生、明日は国宝展の講演だそう。
お忙しいですね。

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