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2017年08月06日06:06

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肉声を編集したから内容は“本物? そんなこたぁない。スティーヴァン・ライリー監督「マーロン・ブランドの肉声」(2015)。

ステイーヴァン・ライリーという監督には、「エヴリシング・オア・ナッシング:知られざる007誕生の物語」(2012)というドキュメンタリーがありました。これはイオン・プロという「007」映画をてがけたアルバート・ブロッコリを中心に据えたドキュメンタリーで、とても興味深かった。今回はマーロン・ブランドの肉声テープが見つかったらしく、それを構成したドキュメンタリーです。だからナレーションやインタビューは一切なし。アーカイブ映像や写真で構成しています。

まず原題、「Listen to Me Marlon」とあります。主語は誰やねんと思ったのですが、マーロン・ブランドが自身に語りかけていたとラストで分かります。これはネタバレではなく、最初から知っておいた方が僕のような印象を持たないのではないか、という“老婆心”から書いておきます。原題など気にとめない人には、どうせ無関係だし。

つまり全編マーロン・ブランドが語るわけですが、すでに報道されている映像や音声に加えて、“自己催眠用”としてテープに収めてあった肉声が使われています。それらの肉声を、ブランドの一生に合わせて並べ変えてある。これが僕にはとても“居心地が悪い”ものでした。つまり、まるでブランド本人が自分の人生を語っているように見えるのですが、そんなことはあり得ない。目的が人生を語る目的ではない肉声から再構成しているわけです。

これは“ドキュメンタリーとは何か”という大命題とかかわることですが、事実を撮影してきた映像と音声を並べ変えても、その連続は事実とは異なってしまうという“本質”があるわけです。切り取った事実を再構築するときフィクションになってしまう。ましてこの作品の場合、ブランド自身が何度も言っているように、“人はみな演技をする”という前提で語られている肉声がすべてなのですから。

それが顕著なのは、息子クリスチャンの起こした発砲事件で、証人台に立ったブランドの証言です。その証言内容が真実ではないとは言いませんが、息子に対して情状酌量を訴える父親の証言ですから、ある意図に基づいています。つまりこの映画による肉声の再構築は、たとえば「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」における若いキャリー・フィッシャーの姿と同じく、“フィクション”なのだと僕は感じました。

ドキュメンタリーもフィクションも“違い”はありません。どちらも映画だという意味で。しかし、肉声と実際の映像を組み合わせて、その人間の一生を再構築したら、やはり“本物”を見ている気になってしまう。いや、そう感じさせようとする作り手の作為を、僕は感じたわけです。だから「聞いてくれよ、マーロン」という原題を、マーロン自身が語っているのだという事実を、念頭に置いたうえでこの作品を見てほしいと思いました。

なお息子クリスチャンは、最初の妻アンナ・カシュフィとの間の子供で、離婚騒動のときにカシュフィが漏らした言葉から“誘拐事件”が起こっていたそうです。カシュフィといえば僕は、エドワード・ドミトリークの「山」が印象的でした。娘のシャイアン・ブランドは、「戦艦バウンティ」で共演した三番目の妻タリタとの間に出来た娘。25歳の若さで自殺していますね。

最も印象的だったのはブランドの肉声ではなく、「ゴッドファーザー」でオスカーを得たブランドの、代理として登壇した先住民女性のスピーチでした。“授賞式にそぐわない発言で済まない”という姿勢がとても気持ちよかった。
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